--UBICとしての強みは?

武田氏:まず、アプリケーションとしての展開させる力を備えていることが挙げられる。行動情報科学研究所は「研究所」の位置付けだが、研究者に加え、アプリケーション開発、クラウド、運用を行う人材も意図的に配置しており、例えば研究開発の会議にエンジニアが参加するほか、その逆もあり、境界を無くした運営を行っている。中心メンバーは日常的に次のフェーズを理解し、考える人材を集めている。そのため、開発にはスピード感があり、平均的に半年間で研究から製品化までを行っている。

また、KIBITエンジンは少量のデータでも効率的な学習が可能だ。現在、機械学習のトレンドは大量のデータを使い、大きなモデルを作ることだが、裏を返せば大きなデータが必要となる。われわれは大量のデータを必須とせず、実用性が高い。また、抽象度が高く、やってみなければ分からないというAI技術の中でも、われわれは迅速に結果を出し、効率的だという評価を得られている。

--KIBITは暗黙知を活かすと聞くが?

武田氏:AIに、すべてを学ばせるよりも抽象化能力や特徴を識別する能力などは人間の方が高く、その中で経験やセンスがある人間の暗黙知、判断をAIが学んだ方が役に立つ場合もある。また、データ量が少ないと人間は高い判断力を維持できるが、100万件、1000万件のデータに対し、すべて同じ能力で判断することができないため、人間の暗黙知を学んだAIが判断を代替することが適している。

BtoCとBtoBビジネスの状況

--2016年中に発売予定の「Kibiro」の登場により、今後はコンシューマにも注力していくようにも見られるがBtoCビジネスの状況は?

武田氏:Kibiroの布石として、レコメンデーションを提案してくれるデジタルキュレーション(情報やコンテンツを収集・整理し、新たな価値や意味を付与して提供すること)サービスがある。

現状では飲食店などを点数でおすすめしたり、探したりするレコメンデーションがあるが、同じ点数でも人によって、味であったり、店の雰囲気、値段といった評価基準にばらつきがあるため定量化はしやすいが、ズレを生じさせる側面がある。

また、協調フィルタリングのように、ある人の購買履歴でおすすめするタイプは、自分の購買傾向から次に欲しいものをレコメンデーションするため、人によっては欲しいものの傾向は当たるが、無難な選択で驚きは少ない。

しかし、レビューのコメントや店の情報など言葉の情報をダイレクトに解析するKIBITの方法は、人の価値観に合ったものを見つけられる。また、例えば普段は観ないようなジャンルの映画にも好きな要素を見つけ出すセレンディピティ(意外性があるものの発見)の可能性を備えており、人によって、より魅力的なおすすめが可能だ。。

「Kibiro」

Kibiroの場合、ロボットというインタフェースが持つ可能性、家庭や個人のコンテクストの中で、KIBITエンジンを使ってもらう演出方法として価値があると考えている。Kibiroの形やサイズ、容姿などがレコメンデーションそのものに価値をもたらすと考えている。

--BtoBビジネスは?

武田氏:従来から手がけている国際訴訟支援などのリーガル分野では、訴訟が起こってからではなく、予防的にAIを使って監査を行うことを勧めている。また、BI(ビジネスインテリジェンス)分野ではデータから何か有意な価値を引き出し、経営や営業に役立てるという使い方がある。例えばコールセンターなどに寄せられたVOC(Voice Of Customer:顧客の声)を分析し、商品企画に反映させる。

さらに営業記録を分析し、優秀なビジネスパーソンが持つ知見を営業チーム全体に広げ、どのような情報に価値があるのか、次回はどのようなアクションをすべきかなどを提示できれば営業力のボトムアップにつなげることも可能だ。CRMの活用は普及が進んでいるが、数字を追っているソリューションが多く、営業日報に記録されたものが分析されていないことが大半となっている。われわれのソリューションでは情報の見方た次のアクションも提案できる。

加えて、ヘルスケアの分野では現在、2つのプロジェクトに取り組んでおり、1つはNTT東日本関東病院との共同での転倒・転落防止プロジェクトで、製品化に向けて実験を進めている。次に、日本医療研究開発機構の採択を受け、慶応義塾大学などと共同でうつや認知症などの定量診断を行うソリューションを開発している。

BtoC、BtoBを含め、全体的にビジネスはよい感触を得ている。傾向として自社で保有しているデータやテクノロジーの活用を試行錯誤しているユーザーほど、われわれのAI技術を組み合わせた際に、ビジネスに使える仕組みまでたどり着くことが多い。