昔ながらのビジネスモデルや、廃れつつあるモノやコト??。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それが途端、斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。そこには多くのビジネスマンにとってのヒントがある、かも。そうしたビジネスモデルにスポットを当て「リブート! “再起業”の瞬間」としてシリーズでお届けします。第4回目は、靴磨きの宅配&出張事業で注目を集める『ミガクル』です。

「靴磨き」に、愛憎半ばの感情を抱くビジネスマンは多いはずだ。

ピカピカに磨き上げたビジネスシューズに足を通せば、気持ちも晴れやかになる。取引先や上司ウケもよくなりそうだ。そもそも、一心不乱に靴を磨く行為そのものも妙に気持ちを落ち着かせ、瞑想のような気分になることすらある。

もっとも、ブラシをかけてほこりを落として、丁寧にクリームを塗って……という一種の儀式めいた靴磨きの手間は、やっぱり面倒でもある。駅前などにある靴磨き屋さんに頼みたいところだが、忙しいとそれさえ億劫だし、休日にわざわざビジネス用の革靴を履く、あるいは持ち込むのも手間である。

こうした楽しくもわずらわしい靴磨きに関するニーズをうまくすくいあげ、新しい靴磨きのカタチを生み出したのが『ミガクル』だ。

『ミガクル』は、株式会社ニイナナが2015年7月からスタートさせたサービス。古くかある靴磨き事業を“リブート”させた事業で、具体的には「宅配」&「出張」による靴磨きビジネスだ。

宅配サービスの「宅配ミガクル」は、サイトからメールフォームで依頼を出せば、宅配事業者が靴を受け取りに来てくれる仕組み。その後、ミガクルの職人が靴を磨いた後に、送り返してくれるわけだ。

都内なら早くて翌日、そのほかの地域でも3~4日後くらいには、ピカピカに磨き上げられた靴が届けられる。料金は一足1000円~1500円(税別・全国一律)と、某大手の靴磨きチェーン店と変わらない相場だ。宅配であることを考えると、破格といえるだろう。このコストパフォーマンスの高さから「靴磨きをしたい、頼みたいけれど、時間がない」というビジネスマンを中心に、じわじわと顧客を増やしている。

ニイナナ代表の堀江淳太さん。1989年東京生まれ。同じ名字の“ホリエモン”などにも影響されて、学生の頃から夢は起業家。大学時代に起業家支援の会社にインターンとして入り、日本最大級の起業家イベント「TERACOYA」を立ち上げ。その後、新卒でソフトバンクへ。ビジネスコンテスト優勝をきっかけに、2015年7月に株式会社ニイナナを設立。靴磨きサービス「ミガクル」を立ち上げる

一方の、出張サービスは「ミガクルoffice」という名で、主にオフィス向けに提供している。今は都内23区限定だが、指定のオフィスに同社の靴磨き職人が出張。1万円で1時間あたり6足までの靴磨きを請け負う。こちらは、福利厚生のような位置づけで、身だしなみに気を使う保険営業の会社や多忙なベンチャー企業などと契約し、好評を得ているという。 事業を立ち上げたのは弱冠27歳のニイナナ代表取締役の堀江淳太さん。そもそも新卒でソフトバンクに入り、IT関連の周辺機器やソフトウェアなどをオフィス向けに売る営業マンだった。

「営業時代に『靴はきれいにしておかないと、恥ずかしいよ』と取引先の経営者や役員の方などによく言われました。けれど、仕事は忙しいし、休日に磨きに出すのはめんどくさくて……」とまさしく自身の悩みから着想を得たビジネスだった。

「僕のように靴磨きに悩んでいるビジネスマンは少なくないと思った。これを宅配などで家にいながら発注できたら頼みたい人は多いだろうなと。もう一つ、ソフトバンクにはマッサージ師さんが会社に常駐して社員を揉んでくれる福利厚生があった。同じように靴磨きがオフィスに来てくれたらすごく助かるだろうなと考えたんです」(堀江さん)。

そもそも学生の頃から起業家志望。就職先にソフトバンクを選んだのも、社内起業制度があったからで、大学4年の時は、ベンチャー支援企業でインターンシップをして起業について学んできた。そうした中で起業を成功させるポイントを学んでいたことも、「宅配・出張靴磨き事業で行こう」という後押しになった。

「たとえば、まったく新しいウェブサービスなどは、銀行融資を得られにくいというのを起業家支援のインターンでまざまざとみてきました。地に足のついた業種のほうが、金融機関も目利きがしやすいので、支援を得やすいんですね。出張、宅配という新しいカタチにするとはいえ、靴磨きという事業は、ベンチャーとして選ぶには最適と考えました」(堀江さん)。

ミガクルのサイト。「出張ミガクル」も「ミガクルoffice」もここからメールフォームを打ち込むだけで依頼できる。もっとも、現在は口コミによる顧客が多いという

もっとも、すでに多くの靴磨き職人や店舗がある。「出張や宅配なら頼みたい」というニーズを彼らも気づいていたはずだ。しかし従来そうしたサービスがあまり無かった理由は、労働集約型の靴磨きという仕事では、出張や宅配などの余計なコストをかけると儲けが出ないから、にほかならない。

では、どのようにして『ミガクル』で破格の1000円~という料金でという宅配靴磨きを実現できたのか?

答えは、宅配便の「復路」にあった。