セイコーエプソンは12月1日、使用済みの紙を原料として、水を使わずに、文書情報を抹消した上で、新しい紙を生産できるオフィス用製紙機「PaperLab(ペーパーラボ)」を発表した。同社は「スマートサイクル事業」としてこの新規ビジネスを推進し、2016年内での「PaperLab」の商品化を予定している。

「PaperLab」

セイコーエプソン 代表取締役社長の碓井稔氏は、新規事業となる「スマートサイクル事業」の設立について次のように説明した。

セイコーエプソン 代表取締役社長 碓井稔氏

「紙は必要不可欠なツールでありながら、限りある資源。オフィスでは紙にプリントして業務効率を高めたいと思っているにも関わらず、紙の使用はコストや環境面によくないというイメージからためらってしまうお客さまがいる。エプソンはコストや消費電力の低いビジネスジェットプリンタを提供することでそうした不安を解消してきたが、紙を心から安心して使ってもらうためには、まだできることがある。今後、紙を含め、資源問題がさらに顕在化していくなか、理想の変化が求められてくるだろう。お客さまや地球規模の問題に対して、エプソンは技術を活かして貢献すべく、2011年から開発を進めてきた。これまでの"紙は扱って終わり"という流れを変え、紙資源から新しい価値を生みだすスマートサイクル事業を立ち上げ、循環型社会の活性化を目指していく」(碓井氏)

紙のリサイクルは、一般的にオフィスから製紙(再生)施設への輸送を伴う、大きなプロセスで循環されている。「PaperLab」は、オフィスで完結する資源サイクルを実現するものとなっている。

オフィスで完結するため、従来と比べて小さいサイクルで資源の循環を実現

また、企業がこれまで外部へ委託したり、内部で裁断したりしている機密文書を、外部に持ち出すことなく、オフィス内で処理できるという点も、同製品の特徴の1つとなっている。文書は紙繊維にまで分解されるため、情報は完全に抹消されるという。

シュレッダーのように情報が残ることなく、抹消される

「PaperLab」に使用済みの紙を入れ、再生開始ボタンを押すと約3分で1枚目の新しい紙ができあがるという。A4用紙の生産能力としては、1分間に約14枚、1日8時間稼働させると6720枚の紙を生産することができるとしている。

また、一般的には、A4の紙1枚を作るために、コップ1杯の水が使われるそうだが、同製品は水を使わずに紙をつくり出すことを可能としている。この、水を使わずに製紙する技術として「Dry Fiber Technology(ドライファイバーテクノロジー)」が採用されている。

ドライファイバーテクノロジーは、繊維化・結合・成形という3つの技術から構成されているという。繊維化技術では、独自に開発した機構による機械的衝撃で、水を使わずに、使用済みの紙を綿のような細長い繊維へ変え、文書情報を一瞬で完全に抹消できるようになっている。結合技術では、繊維化した材料に、さまざまな結合素材を用いることで、用途に合わせて、紙製品の結合強度や白色度を向上したり、色、香り、難燃などの機能を付加したりすることを可能としている。成形技術では、密度や厚み、形状をコントロールして成形することで、A4やA3のオフィス用紙、名刺用紙など、用途に合わせてさまざまな厚み・サイズの紙を生産することを可能としている。

セイコーエプソン Aプロジェクト部長の市川和弘氏は、「PaperLab」の今度の戦略について、次のように説明した。

セイコーエプソン Aプロジェクト部長 市川和弘氏

「PaperLabは2016年に国内での商品化を予定、海外・各国での商品化は順次検討していく。今後、紙を大量に使用するお客さまや、セキュリティや環境の取り組みを重視するお客さまを中心に導入していただき、その効果を実感してもらえるよう、プリンティング文化を革新するための取り組みを世の中に広げていく。市場はこれからつくりあげていく新しいものとなるが、2014年時点でもコピー用紙の破棄・リサイクル・シュレッダー関連の市場はワールドワイドで3000億円以上あると算出している。スマートサイクル事業がこれまでの紙資源サイクルのパラダイムをシフトさせるものであることから、長期的な視点に立ち、まずは売上100億円の規模を目指して、着実に成長していきたい」

「PaperLab」の利用想定ユーザーとしては、金融機関や、自治体のバックヤードがあげられた。将来的には、プリンタのようにオフィスに設置できるよう小型化することも検討しているという。

将来的にはより小型化することも考えられている

現時点での「PaperLab」の仕様は、機器サイズが横幅2.6m×奥行1.2m×高さ1.8m(突起部を除く)。生産できる紙はA4、A3サイズでオフィス用紙、名刺用紙など厚みの異なる紙、色紙(シアン、マゼンダ、イエロー、およびそれらを調合した色)。原料として使用できる紙は、一般コピー用紙(A4、A3)となっている。

価格については商品化の際に発表するということだが、碓井氏は「お客さまにとって経済的なメリットがあると判断して今回発表した」とコメントした。