さて、XF16mmF1.4 R WRの特長は、なんといっても広角レンズでありながら背景を大きくぼかした写真が撮れること。絞って撮るのが常識だった広角の常識を覆す(最小絞り値F2.8未満の)レンズが近年レンズメーカーを中心に発売されているが、その流れに沿った一本といえるだろう。

パースの付いた広角でありながら、まるでポートレートレンズで撮影したかのように被写体が立体的に浮かぶ様は、広角写真の新しい可能性を指し示してくれる。ただ、そのボケにはややクセがあるので注意したい。というのも、背景の木もれ陽や点光源により、二線ボケの玉ボケが発生してしまうことがあるからだ。背景の条件によっては、四隅の流れも気になる。

1/2000秒 f1.6 ISO-200 露出補正-0.7

これは絞り開放付近でのみ見られる傾向であり、ポートレートではこれらを逆手にとって演出とすることもある。普段の街中や室内では大きくボケて美しく感じられる背景を得られるので、撮影時に多少気を配ってあげると、レンズの良さを引き出せるだろう。

1/60秒 f1.8 ISO-320

1/60秒 f16 ISO-500
露出補正-0.3

絞り開放値F1.4というスペックから、ボケのほうに目が行きがちだが、このレンズの魅力は自然かつ端正な描写力にあると思う。背景の美しさが際立つのも、ピント位置の精緻な描写あればこそ。画像で見ると若干過剰にも思われるシャープさだが、(富士フイルムが基準としているであろう)大判プリントにおいて、この高い解像感は心強い。

1/1500秒 f1.4 ISO-200

1/120秒 f1.4 ISO-200
露出補正-0.7

1/90秒 f1.4 ISO-200

レンズ表面には「HT-EBC(High Transmittance Electron Beam Coating)」コーティングに加え、独自開発のナノGI(Gradient Index)コーティング技術を採用しているためか、逆光下でも効果的にフレアやゴーストを低減してくれる。まったく出ないわけではないが、嫌味のない、むしろ画作りに利用したくなると感じるフレアやゴーストだ。また、真逆光でも被写体のコントラストが低下しないのもポイントである。

レンズ表面にはHT-EBCに加え、独自開発のナノGIコーティングを採用

1/100秒 f4.0 ISO-200
露出補正-0.3

16mm(35mm換算で24mm)という焦点距離は、風景写真にもスナップにも最適で、ポートレートレンズとしても好評だ。最短撮影距離が15cmと非常に短いのも特長で、自分の隣を歩くパートナーも、周囲の風景とともに撮影できる。「撮るために離れる」プロセスを必要としない、むしろ被写体との距離を縮めてくれるレンズだ。

1/4000秒 f1.4 ISO-200

実売価格は11万円前後(筆者調べ)。便利なレンズレンタルサービスでも借りることができる。

機材撮影:青木明子