直近のニュース記事をピックアップして、「家電的な意味で」もうちょい深掘りしながら楽しい情報や役に立つ情報を付け加えていこう……という趣向で進めている当連載。今回の題材はこれだ。

ご存知の通りiPod touchは、「携帯電話網への接続機能を持たないiPhone」のようなものだ。前回にリニューアルしたのが2012年9月のことだから、3年近く刷新されていなかったことになる。3年間のブランクはとくにハードウェア面で大きく、新型と2012年モデルでは性能面で大きな差が生まれている。昨今のアプリを使うのであれば、ずっと快適な体験になることだろう。しかも、サイズは過去のものとほぼ同じ。128GBのフラッシュメモリーを搭載したモデルも用意されたから、なかなかお買い得なモデルと言える。

2015年版の第6世代iPod touch

アップルは「擬似垂直統合」ビジネスモデルだ!

そもそもiPod touchの存在は、アップルのiOSデバイス戦略と密接に紐付いている。

他社製品とiOS機器の違いは、アップルが自ら設計したり、他社に特別なパーツをオーダーして調達するものが多い、ということにある。中核となるSoC(※)である「Aシリーズ」は自社開発の上、パートナーに製造を委託しているもので、他のメーカーは使えない。性能を数字でみれば、iPhoneもiPadも、Android端末に比べ特段優れた点はない。iOSとの一体設計がなければ、ここまで快適な製品にはならない。

※システム・オン・チップ。CPUやGPUと周辺LSIを一つにまとめたもの

そして、アップルのiOS機器、特にiPhoneの特徴は、とにかく利益率が高いことだ。パーツコストは販売価格の3割程度と言われている。ただし、ここに宣伝や流通、在庫、研究開発などのコストが乗ってくるので、実際の営業利益率は3割、というのが定説だ。とはいえ、他社の倍近い利益率と言われており、アップルは圧倒的に商売がうまい。

高い利益率を支えているのは、部材調達コストのコントロールである。アップルが自社独自のパーツを調達しているのは、そうするのが、もっとも価格を安く、安定的に調達する方法であるからだ。アップルは工場を持たず、生産委託の形でビジネスをしている。しかし実際には、半導体やボディの生産について、かなり初期設計の段階から関わり、独自に生産機械を調達し、生産委託工場に配置していたりする。

工場を持たず、他社から供給されるパーツを組み立てて最終製品を製造するビジネスモデルを「水平分業型」という。そして、アップルは水平分業の代表、と言われることが多いが、筆者は間違いだと考える。工場こそ持っていないが、「バーチャルな垂直統合型」だと思っている。自社製品に特化した部品を一気に製造し、ソフトもそこに合わせてチューニングする。そうやって無駄を排除することが、利益率を高めるためには重要なのだ。

思えば、アップル製品はバリエーションが少ない。スマートフォン製品においては、サムスンやソニー、LG電子に対して、数分の一のバリエーション数しかないのだ。それは、同社が少ないバリエーションで顧客をつかみ、利益率を高める戦略であることを示している。