LINEにGoogle+ハングアウトなどなど、インターネット上で電話機能を提供するアプリケーションやサービスが隆盛だ。携帯電話の音声通話を使う機会は減る一方で、筆者もSIMフリー版スマートフォンへ乗り換えた際に電話番号を破棄して、インターネット電話のみの環境にしたばかりだ。そして、中でも強い存在感を示しているのが「Skype」である。
iPhone版Skypeでも携帯/固定電話に発信できるが、Skypeクレジットの購入が必要となる。ただし、Skype間の通話は無料 |
テキストベースのメッセージ送受信はもちろん無料。ビデオメッセージや音声メッセージも送受信できる |
Microsoftは2011年にSkypeを買収し、現在は自社のサービスとして展開している。他のインターネット電話サービスと比べて、Skypeの存在感を際立たせているのが、リアルタイム翻訳を実現する機能「Skype Translator」だ。
Windows 8.1ユーザーを対象にしたプレビュー版では、英語とスペイン語による相互通訳と40言語以上のIM(インスタントメッセージ)翻訳機能を備えている。YouTubeの動画では、メキシコと米国の小学校をSkypeでつなぎ、児童たちがリアルタイム翻訳を通じてコミュニケートしているのを見て取れる。
本機能の背景には、Microsoftが音声認識や自動翻訳、機械学習技術へ10年以上も投資してきたという土台がある。そして、本レポートでも2012年に報告したように、リアルタイム翻訳の研究を続けてきたのがMicrosoft Researchである。2014年のWPC(Worldwide Partner Conference)で英語とドイツ語の同時通訳を行うデモンストレーションを披露したのは記憶に新しい。
その足跡をたどれるのがMicrosoft ResearchのSpeech-to-speech milestonesである。機械翻訳のパイオニアに数えられるWarren Weaver氏が書いたメモ「Translation」や、IBMとジョージタウン大学が研究した英語/ロシア語の翻訳システムを紹介しつつ、同研究所とアルバータ大学の共同論文「Dependency Treelet Translation: Syntactically Informed Phrasal SMT」を発表したのが2005年。ちょうど10年前だ。
ここから2007年に「Bing翻訳」のもととなるWindows Live Translatorベータ版を発表。2010年には、Microsoft Research Asiaが音声認識と機械翻訳を組み合わせた「The Translating! Telephone」をTechFest 2010で初披露した。こちらはSkype Translatorの原型といえるだろう。
精度向上と日本語対応に期待が集まる
Skype Translatorの公式サイトにはプレビュー版の登録リンクが用意されている。筆者も公開直後から申し込んでいるが、今のところ招待状は届いていない。もっとも今、使用可能になっても筆者は英語もスペイン語も話せないため、宝の持ち腐れになってしまうだろう。
現在Windowsストアでは、「Skype Translator preview」を公開している。誰でもインストール可能だが、未招待者アカウントでサインインを試みると、"Invitation Only"とはじかれてしまった。
Skype Translatorでは、通話を始める際に「Translator」スイッチをオンにすると、通話相手の言語と入力する言語が選択可能になり、同時通訳/翻訳が有効になる仕組みのようだ。21世紀を迎えても街にリニアモーターカーは見かけず、チューブ型道路も実現していないが、世界中の誰とでも話せる"テレビ電話"は現実味を帯びてきたといよう。
筆者が気になるのはSkype Translatorを実際に使用した際、どの程度の精度で翻訳されるかだ。冒頭の動画にしても各デモンストレーションにしても、すべてMicrosoftが用意したものであり、ユーザーが実際に使用したものではない。会話に関しても平素な単語を使っているように見受けられる。
また現在のところ、文法が大きく異なる言語間の機械翻訳については、精度が高いとは言い切れない。だが、Skype Translatorは機械学習技術を併用しているため、使用するユーザーが増えることで学習量の増加と精度向上が期待できるという。だからこそ、初めてSkype Translatorに触れるユーザーを落胆させないだけの精度を備えた上で、パブリックベータもしくは公式リリースに至ることを期待したい。
阿久津良和(Cactus)