本当はシャッターボタンも取ってしまいたい

かつて中山氏が手がけ、デジタルカメラの祖となった「QV-10」。その狙いは「フイルムがデジタルになったカメラ」ではなく、デジタルが可能にする「コミュニケーションツール」だったという。

デジタルカメラの祖「QV10」は、液晶モニターと同時に回転式レンズも大きな特徴だった

中山氏「写真を撮る側、撮られる側の関係に、昔からそれほど思い入れがないんですよ。写真は後から見て楽しむものだと思うんです。写真を撮る瞬間の、ファインダーでのぞき込まれる緊張感なんてナンセンス。だから、QV-10ではファインダーを取り払って液晶モニターを付けたんですよ。

私が考える理想的なカメラは、超広角レンズで超高画素、超高速連写でずっとすべてを逃さず撮影している、というもの。撮る側も撮られる側もカメラを意識なんてしない。あとから『あの場所あの瞬間』の一枚を取り出して楽しめればいい。本当はシャッターボタンも取ってしまいたいんです。実際には、なかなかできないですけれども(笑)。

近年のEXILIMでは、ハイスピード技術を使って、『パスト連写』(編注:シャッターを押した瞬間より数コマ前の画像を記録する機能)や、『画像認識オートシャッター』(編注:指定範囲に被写体が入ると自動的にシャッターが切れる機能)を実現しました。

これらも、シャッターを押すという行為から撮り手を解放するためのものです。FR10に搭載したインターバル撮影機能も、その発想は同じ。これでまたひとつ、シャッターレスに近付けたと思います。」

写真左のネックストラップは付属する。写真中央のマルチアングルクリップと写真右のマルチアングルベルトセットはオプション。身体や自転車などにFR10を固定して、インターバルシャッターに設定しておくと、いろいろとおもしろい写真を自動で撮れる

ところで、QV-10といえば、レンズ部分が上下に回転するギミックを持っていた。これもまた、光の導線を柔軟に変えられないフィルムカメラでは不可能な仕組みだ。当時は、後続の他社製デジタルカメラでも、この仕組みを採用したものが少なからずあったのだ。中山氏は、液晶モニターだけでなく、実はこのギミックもデジカメの標準機能にしたかったという。

中山氏「QV-10も、本当はデタッチャブル(取り外し式)にしたかったんです。でも、当時は技術的にできなかった。しかも、やがてデジタルカメラが小型化+メガピクセル競争に突入してしまい、レンズをオフセットしたり回転させたりする余裕がなくなってしまったんです。それが、QV-10から20年を経て、ようやく実現できた。FR10は、カシオのデジタルカメラに対する初心と最新技術を詰め込んだ製品なんです。」