カシオタイ第三工場の開所式と工場見学に続いて、カシオタイ 前・代表取締役社長の狩佐須完夫氏と、現在の代表取締役社長である臺場秀治氏にお話をうかがった。

カシオタイ 前・代表取締役社長の狩佐須完夫氏

カシオタイ 代表取締役社長の臺場秀治氏

冒頭で述べたように、カシオタイの工場は主にG-SHOCKなどの時計を生産してきた。旧工場が2011年の洪水で被災し、現在の工場に移転してから着実にさまざまな整備を進め、旧工場をしのぐ生産能力を有するようになった。洪水の被災から工場移転を含め、2014年6月までカシオタイを指揮してきたのが前社長の狩佐須氏だ。「時計の生産については、新工場は当初の公表値で月産約70万台の生産能力でしたが、今年(編注:2014年)の6月には月産80万台を達成しました。現在の設備としては100%近い台数ではあるものの、余力はまだまだあります。」(狩佐須氏)。

新工場に移転したとき、旧工場から引き続いて移ってきた人員は300人足らず。それでもカシオ側から見れば、旧工場から約250kmも離れた新工場へと、300人もの従業員が移ってくれたことにとても感謝しているという。

現在は約1,800人を抱える新工場だが、稼働した当初はほとんどが新人という状況だった。人員の習熟度が高まるにつれて生産性が向上するのはもちろんのこと、狩佐須氏をはじめとする経営トップは、現場の意見を積極的に採り入れてきた。1つの例が、前ページでも紹介したセットアップルームだ(生産ラインに流す部材を品目ごとにまとめて待機させる場所)。狩佐須氏は「生産性」を特に強調する。

「重要なのは、生産ラインにどれだけ効率的に、材料を供給できるかです。組み立てる部品がなくなったら、セットアップルームに取りに行くことで、スムーズに生産を再開できます。無駄な時間を極力なくし、いかに機会損失を少なく生産するかに取り組んできました。新工場の稼働当初と比較すると、だいたい20%は生産性がアップしています。時計に関しては、月産80万台から、月産100万台の体制までは持って行けると考えています。」(狩佐須氏)。

カシオタイ工場で主力となる生産品目は時計。写真はG-SHOCK生産ラインの一部と、できたてほやほやのG-SHOCK

そして今回、新たな第三工場で関数電卓の生産を開始。2014年10月には電子辞書の生産も始める。これには多様な企業戦略が関わってくるが、1つの目的はいわゆる中国リスクを減らすことだという。部材の調達先もASEAN諸国へと拡げ、有力な生産拠点であるカシオタイ工場で作る製品(の種類)と生産割合を高めていく計画だ。将来的には、中国で生産している電卓と電子辞書の50%を、カシオタイ工場で生産することを目安とする。先にも述べたが、第三工場は月産110万台規模の生産能力を持つ。

カシオタイ工場の生産能力が一定の水準を超え、将来的な方向性が定まったところで、狩佐須氏から臺場氏へと社長がバトンタッチ。臺場氏は「カシオタイの工場は、もともと時計の生産で成長してきました。今回、電卓と電子辞書という新しい製品を生産することになり、『マルチ生産』の拠点として、さらに成長させることが私の使命です。」と力強く語る。

なお、カシオタイの新工場は、約14万5,600平方メートルもの敷地面積がある。現在は空き地になっている部分も多いのだが、全体に対する敷地使用面積の比率は約65%で、そのうち工場建屋は約3万平方メートルとのことだ。残る35%の敷地面積は今後の拡大予定となっており、生産能力にまだまだ伸び代があることは、大きな強みといえる。

狩佐須氏も臺場氏も、タイの現地従業員を高く評価している。タイは「微笑みの国」とも呼ばれ、信仰に厚く、ファミリー的な国民性だ。仕事に対しても真摯に取り組んでくれるという。カシオタイは(現地目線で見れば)外資系の企業として、現地の人々に気持ち良く働いてもらうのは大切なことだし、陳腐な表現だが「Win Win」の関係を築けていることが、成長の原動力となっているのだろう。