(左から)CRITEO Mobile VP ジェイソン・モース氏、Appier,CEO&Co-founder チハン・ユー 氏、TapCommerceでExecutive Director APAC Marc Hale氏、StrikeAd Regional Sales Director APAC マリオ・ピロ氏

先日行なわれたAd Engineering Summit 2014。基調講演ではCRITEOでMobile VPを務めるジェイソン・モース氏、AppierのCEO&Co-founder チハン・ユー 氏、TapCommerceでExecutive Director APACのMarc Hale氏、StrikeAdのRegional Sales DirectorであるAPAC マリオ・ピロ氏が登壇。モデレーターはmediba CMOの菅原 健一氏が務めた。

初めにモデレーターのmediba 菅原氏は、Ad Engineer Summitについて「Web広告にキーワードの変化が起こっている」と指摘。「DSPやSSPといった言葉が、ここ2年で当たり前になってきており、主要プレイヤーが変わりつつある。広告業界におけるエンジニアリングの重要性が増す一方で、従来の広告会社はエンジニアリングやテクノロジーに対してコンプレックスを抱いていると思う。文系広告マンには取っつきにくい気もするが、(事前に登録した広告会社の人が2割と挙げた上で)もっと入ってこられる土壌を作れれば」と話した。

ジェイソン・モース氏のCriteoを初めとする4社は、世界のアドテク業界をリードする企業。Criteoのプラットフォームは、ユーザーに対してパーソナルな広告を適正な価格で提供しており、特に「パフォーマンスに力を入れている」(モース氏)という。5000の広告主と6000のパブリッシャーを顧客に持ち、顧客継続率は90%を超えている。

StrikeAdはシンガポールに拠点を構えており、アジア地域で急成長を見せる世界最大級のモバイルDSPだ。一方でTapCommerceは、モバイル領域のリターゲティング広告やリエンゲージメント広告を得意としており、先日Twitterに買収された。また、Appierは、クロス・スクリーン、つまり異なるサイズのデバイスに対してワンストップで広告を配信できるプラットフォームを提供している。

いずれのパネリストも、「フラグメンテーション(断片化)」が喫緊の重要な課題であることを認識しており、「ブラウザ跨ぎは夢である」(TapCommerce Hale氏)としつつも、将来性のあるものとして、横断的な対応策を考えていきたいとした。

また、デスクトップもまだ存在感はあるものの大半がモバイルへシフトしているようで、「コマースはモバイルへ」がほぼ決まりつつあるという。モバイルはデバイスの進化が速く、広告マーケットが次から次へと生まれているという。「流れにどんどん対応していかなければいけないと思う」(モース氏)

菅原氏は最後に「フラグメンテーション対応や技術競争力は重要だと思うが、モバイルだけに特化するものもあまり得策ではない。将来はウェアラブルデバイスをどうするのかという問題もある。時代を乗り切るためには現在のパートナーだけではなく、複数のパートナーと協力しなければならないということだ」とし、一極集中だけではない、考え方にはとらわれない柔軟な姿勢が重要だと説いた。

エンジニアにとってアドテクが面白い理由

基調講演のトークセッション後には、mediba 菅原氏によるアドテクの"おさらい"が行なわれた。これは、ネット広告のビジネス側に立つ一般の広告会社に向けたアドテクの紹介で、トークセッションと同じく「エンジニアリングが重要である」点を強調した。

「広告業界の課題を解決しようと新たなテクノロジーが生まれている。技術こそがビジネスの源泉になっているのが現状だ。素早く広告が出せるようになっただけではなく、よりパーソナルな広告を出せたらいいなという思いが新たなアドテク、ビジネスモデルを生み出している。広告主がハッピーで価値ある広告を生み出せるようにしたい」(菅原氏)

アドテク業界は、通常の広告業界と異なり、クリエイティブや営業ではなく、エンジニアが牽引している。これは、海外のケースだが、CEOが別企業の元CTO(最高技術責任者)であることが多いことも理由の1つであるという。

TVなどの広告在庫が限られる場所では1日に億にも達することのない広告枠しかないが、際限のないWebの世界では1日に45億個の在庫枠がある。「広告主が出したいメディアに出したい広告を出せるかが重要。近年の技術向上により、最適解を導き出して、正しいオーディエンスに出せるようになってきていることを感じる」(菅原氏)

RTB(Real Time Bidding)はアドテクでもはや主流となりつつある考え方だが、瞬時にユーザーに対して最適な広告を出せるように入札できるようにするシステムだ。これこそが、最適解を導き出し、なおかつ適正なコストで広告を提供するための仕掛けでもある。

菅原氏はこうした例を挙げ「エンジニアにとってアドテクが面白い理由」を語る。「エンジニアは量への挑戦、速度への挑戦、質への挑戦と、様々な挑戦ができる。エンジニアが処理速度を上げるためにサーバーを買うことは負けに等しく、自分たちの力で可能な限り速度を上げることを目指す。コストだけではなく、サービスとして運営していくことは他のサービスと違うと思う。要求レベルは高いが、それ自身がビジネスになるし、楽しいことだと思う」(菅原氏)

最後にWeb広告ではマス・マーケティング、マス・プロダクトが通用しないことを説いた。

「フラグメンテーションの時代、画一的なマーケティングでは通用しない時代になった。昨日『何ch見たよ』『新聞読んだよ』といった会話ではなく、釣りの情報といったユーザーの好みにあったものに最適なものに合わせる時代だ。例えば、シャンプーのシェアは多くて数%で、欲しいユーザーは欲しいシャンプーを選ぶ。その他の業界であっても、メーカーは左上の大きいマスよりも、小さいところで最適なものを提供していく流れになりつつある。そのように、きちんとユーザーに合ったものを提供していく時代に広告も最適化していかなければ」(菅原氏)

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