従来の時計になかった価値観を求めて

増田氏「時計の魅力として欠かせないのがデザインです。そして、そのデザインが本物であることが重要なんです。本物のデザインとは、機能を語っていること。例えば、G-SHOCKのゴツゴツした形は、耐衝撃性や壊れないという安心感を形で語っている。

これがタフネスでも何でもなく、ただゴツゴツしただけの時計だったら見向きもされないでしょう。それでは本物のデザインではないからです。ここを見失ってしまうと、カシオはアナログ時計でポジションを確立できないのです。

張り出したベゼルや無骨なりゅうずガード、力強いインデックスの表現などでタフネス性能を見事に表現した、G-SHOCK SKY COCKPITの「GW-A1100」が大ヒット

しっかりとした機能と、それを物語るデザイン。私たちがデジタルでやってきたことを、アナログにも落とし込んでいくことが重要なのだと思い至りました。つまり、私たちの得意なデジタル技術で中身(機能)をドライブして、それをアナログの外観や操作で表現する。

デジタル由来のアナログ。機能の表現を追求していくことで、使う楽しさやデザインを演出していく。『デジタルがドライブするアナログ』こそが、カシオのアナログ時計なのだと。」

その発想のもとに誕生したのが、カシオのアナログ時計を支える各針の独立制御技術「マルチミッションドライブ」や、電子式リューズスイッチでの直感的な操作を実現した「スマートアクセス」だ。

増田氏「最近ね、こういう風に言われるんですよ。カシオってこういう面白い時計を作ってるよね、って(編注:左右の人差し指を時分針に見立てて12時を作り、それぞれの人差し指を別方向に回す動作をしながら。これは、マルチミッションドライブの動きだ)。これね、僕はとてもいい表現だと思っているんです(笑)。」

マルチミッションドライブが、増田氏の言う「デジタルによる機能のアナログ表現」として認知されていることを示す、分かりやすいエピソードだろう。そして、今回発表した2つのコンセプトモデルもまたその軸線上にあると、増田氏は続ける。

世界初のGPSハイブリッド電波時計G-SHOCK「GPW-1000」

ロック式のリューズスイッチによるスマートアクセスを搭載

増田氏「今回のGPW-1000も、EQB-500も、『デジタルの技術を使ってより手軽に、より正確な時刻を取得できるアナログ時計』という点で目的は同じです。ただ取得のための手段や利用環境として、色々な可能性を探らねばならないと思っています。そのアプローチの例として、今回はGPSハイブリッド電波時計とスマートフォン連携を選んだわけです。」

GPSハイブリッド電波時計は、世界各地の正確な時刻を取得できる。Bluetoothウオッチも、アプリからワールドタイムを簡単にセットできる。世界のどこに行っても、ボタンを1つ押すようなちょっとした操作によって、現在地の正確な時刻がすぐ手に入る。

カシオが最終的に目指しているのは、世界のサマータイムや時差といった条件をユーザーは何も気にせず、自動的に時間が設定されることだと増田氏は語る。これは、明らかに従来の時計になかった価値観だ。増田氏が言うように、他社やスイス勢と競合しているのではなくて、違う価値観を追求しているといえる。