インテルやサムスンらはLiMoやMeeGo、BadaといったOSを開発してきたが、iOSやAndroidがスマートフォン市場を席巻し、支配力を強めていく中、これらの企業が新たな選択肢として提供するOSだ。

Tizen Storeのデモ

Tizen向けアプリの例。Vimo

ゲームもすでに開発され、動作している

Tizenは、開発をオープンソース陣営が行い、ビジネス化やエコシステムの構築をTizen Associationが行うという方針。これには「過去の反省がある」とNTTドコモの永田清人取締役執行役員マーケティング部長は語る。

永田清人氏

永田氏はLiMoでもチェアマンを務めていたが、クローズドな環境で、キャリアなどの開発者ではない人たちが開発に関して口を出してきた体制を振り返り、「イノベーションを阻害していた」という。また、「LiMoではエコシステムやビジネスモデル(の構築)を避けてきた」が、TizenではOSの開発はオープンな場での開発に任せる。Tizen Associationは「もちろん(開発に対して)要求はいう」(永田氏)が、基本的にはエコシステムやビジネスモデルの開発に注力する方針。永田氏は、開発の技術の部分は開発者やメーカーに任せ、それをベースにエコシステムやビジネスモデルを構築するという「新しい枠組みで、チャレンジだと思う」としている。

Tizen Associationには、チップセットメーカーのインテル、端末メーカーのサムスンを筆頭にHuawei、NEC、富士通、パナソニック、キャリアとしてNTTドコモ、Vodafone、フランステレコム、Sprint、SKTelecom、KTが参加している。

Vodafoneを始め、参加企業もコメントを寄せており、こうしたことは「LiMoの時はなかった」と永田氏。こうした点で、Tizenの「ポテンシャルを認めてくれている」とのことだ。

Tizenは、「もっともポテンシャルの高いOS」と永田氏はアピール。特に「サムスンがいるのがキー」だという。サムスンが実際の製品を提供することが明らかになっており、「いいものが出てくるはず」と語る。加えて、主導する立場のサムスンがいるにもかかわらず、同じグローバルメーカーであるHuaweiも参加したことをアピール。もともとHuaweiは、Tizen Associationに参加はしたものの、サムスンがどこまでOS開発を主導し、囲い込みをするかなどといった懸念があったようだ。しかし、今回のイベントの前日に、Huawei Deviceのトップで「ビッグボス」(永田氏)のRichard Yu氏にTizen Associationの方針を説明したところ、問題ないとの判断をしたようで、急遽イベントで登壇し、今後のサポートを確約したのこと。この点からも、永田氏は、Tizenのオープン性の高さをアピールしている。キャリアとして、米Sprintも参加しているが、その買収を進めるソフトバンクが参加することも歓迎している。

Huawei DeviceのRichard Yu氏

Tizenは、アプリとしてはHTML5を採用する。これはKDDIも参加するFirefox OSと同様だ。Firefox OSとTizenは新OSとしてはライバルだが、iOSは当然として、Androidでさえもオープン性や自由度が低いという認識を示しており、Web標準技術のHTML5を使い、自由度の高いプラットフォームを目指すという方向性は一致している。

ただ、エコシステムとして回るためには、世界で一定のシェアが必要となるため、15~20%程度のシェアを目指す。それには、スマートフォンアプリの開発者がどれだけ参加するかが鍵となる。その点、HTML5はWeb作成にも重要な技術であり、開発者自体は多い。TizenとFirefox OSがサポートすることで、開発者はWebだけでなく、スマートフォン向けにも展開しやすくなる。永田氏は、Firefox OSの存在は、Tizenにとっても「追い風になる」としている。

永田氏は、TizenがHTML5への「ドライバー」としての役割も期待する。Tizenは、ベンチマークアプリ「LINPACK」でのスコアがほかのOSよりも高く、HTML5の動作が一番速い点も、開発者へ訴求するポイントとして挙げ、今後のHTML5化が進展することも狙う。今後も、複数のOSが共存する状況は変わらず、それでもHTML5であればどのOSでも動作する、という状況を作り上げるきっかけも目指していく。

ドコモのスマートフォンの主軸はAndroidだが、Tizenをやるからといって、Androidを縮小するわけではないという。「勝負しているメインはAndroidで、ハイエンド端末では当然やる」と永田氏。当所、Tizenがボリュームゾーンをターゲットにすることもあり、当面は”すみ分け”が行われるようだ。端末は、サムスンが今年後半にも1機種を投入する見込みだ。

それにともない、dマーケットなどのドコモサービスもTizenに対応させていく。同社はキャリアとしてのプラットフォームベンダーとしての役割に加え、コンテンツプロバイダーとしての役割も強化していく方針を示しており、基本的に同社のサービスは端末、キャリアを問わずに使えるようにしていく。そのため、Tizenにもサポートを広げる。Tizenは課金やマーケットの仕組みも自由なので、ドコモユーザーは携帯料金との合算でコンテンツ料金が支払えるなどのキャリア決済ができる点をメリットとしていく。

また、ドコモとして開発してきた技術や、日本固有のおサイフケータイ、ワンセグなどの技術は、必要であればTizenの開発側に提供していく考え。それによってドコモサービスの国際展開を狙うとともに、海外の開発者が日本向けの対応がしやすくなることも期待する。

Tizen Associationの活動は、「大きな変更がない限り、集まる必要はない」(永田氏)という認識だが、エコシステムやビジネスモデルがうまく回り始めることを当面の目標とする。「まだベイビーだから、それをいかに一人歩きさせるかが1つのゴール」。永田氏はそう話している。