本当はやりたくなかったテザリング
さらに、iPhone 5においてKDDIはテザリング機能を利用可能にした。テザリングは、端末を無線LANルーター化し、ほかの無線LAN機器を接続してインターネット接続できるようになる機能だ。イー・アクセスはかねてからPocket WiFiやスマートフォンでこれを可能にしており、KDDIはWiMAX対応スマートフォンでテザリングをサポートしてきた。iPhone 4Sでは、KDDIもテザリング機能を無効化していたが、LTE対応を機に、iPhone 5ではテザリングを開放した。
これに対してソフトバンクは、iPhone 4Sと同様にこれを無効化してきた。KDDIの対応によって、ソフトバンクも対応を余儀なくされたため、13年1月15日からテザリングに対応することを表明してきた。ただ、孫社長は「技術的にはできても、ネットワークのキャパシティが十分にないままやっても、(既存の)3Gの顧客に迷惑をかける」危険性があるとして、「やらざるをえない、でもやりたくないという気持ちが本音にあった」と認める。
こうした背景から「テザリングというキーワードが経営統合を早めた」と孫社長。データ通信に注力し、すでにLTEでテザリングに対応しているイー・アクセスの周波数帯を手に入れることで、ネットワークに余裕ができる。これによって「少なくとも安心して受けられる構えができた」(同)ため、テザリングの提供開始も前倒しする。
これまでの13年1月15日から、今年の12月15日に1カ月の前倒しをする。ただ、テザリングに対応するiPhone 5で1.7GHz帯を利用できるようになるには、いくつかのハードルがある。ネットワーク側の準備やテスト、アップルとの調整などが必要で、特にデータ通信のためのLTEと音声通話のための3Gを切り替えるCSフォールバック機能のような技術的な開発も必要になる。最終的に1.7GHz帯が利用可能になるのは来春になる見込みだという。
当初は、2.1GHz帯でのみテザリングを開放するが、孫社長は「援軍(1.7GHz帯)が目の前に来ると分かっていれば、(現状の)ネットワークそのものにゆとりはある」と話し、いったんテザリングを開放しても問題ないという認識だ。
今後、ソフトバンクでは1.7GHz帯をメインとしてLTEを構築していく方向性のようだ。国際的に使われていることが多いため、端末調達でも有利になるという考えで、周波数帯としてはソフトバンク、イー・アクセス両社とも、同じ帯域をサポートする端末を供給する。孫社長は、「グローバル端末はすでに両方に対応している。それが日本に入ってきやすくなる」と指摘。日本の端末メーカーも、グローバル市場に向けた製品開発をしやすくなるとコメントしている。
1.7GHz帯と2.1GHzの両対応によって「LTEがダブルエンジンになる」と孫社長。複数の帯域を重ねることで、1つの帯域が使えなくなってもカバーできるといった冗長性の確保も狙っており、これによって安全性も高まる、としている。
なお、ソフトバンクは当初、iPhone 5向けのパケット定額制において、「無制限」のデータ通信が利用できるとしていたが、実際は月間1.2GB以上の利用者は速度制限をかける場合があるとしていた。これを改め、各社と共通の「3日間で1GB」の利用者に速度制限をかける可能性がある、とした。
テザリングを利用できる「パケットし放題フラット for 4G LTE」は月間7GBまでの制限があるが、テザリングができない「パケット定額 for 4G LTE」にはその制限がなく、1GB/3日間超過時の速度制限がない限りは「無制限」のデータ通信が可能になる、と孫社長はアピールする。……続きを読む
次ページ:イー・アクセス買収の効果と内訳