発売日が10月26日と決まったWindows 8。以前の発表どおり期間限定のオンラインアップグレード版は39.99ドル、パッケージアップグレード版は69.99ドルと、1ドル=80円換算なら前者は約3,200円、後者は約5,600円となる。日本国内やキャンペーン後の価格は未発表だが、読者の皆さんも発売が近づいていることをひしひしと感じていることだろう。そんなWinodws 8の公式ブログ「Building Windows 8」では、Windows 8のスクリーンキーボードに込めた改良点を幅広く説明している。今週もMicrosoftの各公式ブログで発表された記事を元に、Windows 8に関する最新動向をお送りしよう。

Windows 8レポート集

タッチキーボードの性能は物理キーボードを超えるか ?

タブレット型コンピューターでの動作を前提に設計されたWindows 8では、直接ディスプレイをタッチして、キー入力を行うスクリーンキーボードを備えている。Windows 8の場合「Thumb Keyboard(親指キーボード)」と呼称し、日本語版Windows 8は「タッチキーボード」という名称に変更された(Release Previewの場合)。正直なところ「なぜ親指 ?」と思っていたが、タブレット型コンピューターを両手でつかむと、ディスプレイ下部に現れるスクリーンキーボードを親指で押すことになるため、前述のような名称を用いることになったのだろう(図01)。

図01 親指でスクリーンキーボードを押すことから名付けられた「Thumb Keyboard」(公式サイトの動画より)

このWindows 8に搭載されたスクリーンキーボードに関して詳しいブログ記事を執筆したのが、WindowsチームプログラムマネージャーのKip Knox(キップ・ノックス)氏。改めて述べるまでもなく、Windows OSはXP時代からスクリーンキーボード機能を備えてきたが、Windows 7までは基本的に物理的なキーボードをエミュレートしてきた(図02~03)。

図02 WindowsチームプログラムマネージャーのKip Knox(キップ・ノックス)氏(公式サイトの動画より)

図03 Windows 7の「スクリーンキーボード」。物理的なキーボードをエミュレートしている

しかし、物理的なキーボードとスクリーンキーボードでは根本的な相違点がある。キーボードにこだわりをお持ちの方ならご承知のとおり、キーを打つ際のストロークや打鍵音はキーボード製品によって千差万別。そのためキー入力が基本業務となる文筆家やプログラマーは、特定メーカーのキーボードを愛用する場合が多い。だが、Windows 8のスクリーンキーボードは、その差を埋めるため数々の改善を施したと同氏は述べている。

そもそもタブレット型コンピューターをどのように持ち、どの指を使ってスクリーンキーボードを打つかは人それぞれ。そこで同社では「右手の指でキーを打つ」「タブレット型コンピューターを膝にのせ、ブラインドタッチでキーを打つ」「両手で同コンピューターを持ち、両手の親指でキーを打つ」といったシチュエーションを想定。この前提でスクリーンキーボードの打ちやすさを研究したという(図04~05)。

図04 このヒートマップは両手親指を用いた際の入力範囲。緑色は快適さ、黄色は通常、赤色は入力が難しいことを示している(公式サイトより)

図05 人の視点を調査するアイトラックを使用し、タッチキーボード使用時の焦点を視覚化したもの。スクリーンキーボードと入力フィールドに焦点が集まっている(公式サイトより)

その一方で同氏らが注目したのが、前述した打鍵感覚。物理的なキーボードと仮想的な(スクリーン)キーボードの差は大きく、長文や長いコードを書いたときの爽快感をスクリーンキーボードから得ることは難しい。また、物理的なキーボードでは、指だけでポジショニングを確認できるようにするため、[J]キーや[F]キーに突起を用意している。しかし、スクリーンキーボードに同様の機能を求めることができないのは周知の事実。

その点を認めた上で、Windows 8のスクリーンキーボードには、指が触れたときにキーの色を変化させ、クリック音と呼ばれる効果音をキーによって変更している。読者のなかには古いコンピューターで使用されていたビジブルベルを思い出す方もおられるのではないだろうか。触感的なフィードバックを生み出せない以上、視覚や聴覚によるフィードバックを強化するのは自然の流れだろう(図06~07)。

図06 画面はスクリーンキーボードの[スペース]キーを押しているシーン。最初に[スペース]キー全体が光る

図07 続いてキートップ部分に円形の線が、フェードアウトするアニメーションで描かれる。自身が押したキーが一目でわかる仕組みだ

スクリーンキーボード使用時の正確性を向上させるため、レイアウトにも着目した。本来であれば物理的なキーボードと同じレイアウトの方が直感的にわかりやすいものの、押しやすさや表示領域を踏まえると、必要最小限のレイアウトを採用すべきである。そのため、数字や記号を入力するためのレイアウトや絵文字入力専用のレイアウトが用意された(図08~09)。

図08 数字や記号を入力する際のレイアウト

図09 絵文字専用のレイアウトも用意されている

また、内部的な改良も施されている。「TH」と入力して「W」と「E」の間を打った場合、「THW」より「THE」と入力したい可能性が高いと判断し、「W」に近い部分を叩いても「E」が入力されるという。このほかにも[Ctrl]キーを押した場合はテキスト編集を行うことを想定し、[A]キーには「すべて選択」、[C]キーには「コピー」といったキャプションをキートップに表示している。

このように数多くの改良を施したWindows 8のスクリーンキーボードは、キーボードレスのタブレット型コンピューターによるキー入力の強い味方となるのは明らかだ。確かに単文入力や短い電子メールであれば、実用レベルに達してることは理解できるが、物理的なキーボードの域に達しているとは言い難い。あくでもスクリーンキーボードはタブレット型コンピューターで補助的にキー入力を行うための機能であると割り切るべきだろう。

阿久津良和(Cactus)