ではAMDのメリットは? というと「業界標準」の座の獲得である。かつてx86-64の様に、業界標準の座を獲得できたテクノロジーが普及することになるのはこの業界なんども繰り返されてきた話で、だからこそ各社とも自社技術を普及するための標準化団体を雨後の竹の子の様に設立する訳である。今のところx86のマーケットでは、NVIDIAのCUDAとAMDのStream、IntelのIPP(Intel Performance Primitive)といった独自規格が乱立しており、そこで共通APIとしてOpenCLとMicrosoftのDirectComputeがそれぞれポジションを奪い合っているといったところ。AMDはStreamの普及を早くからあきらめてOpenCLに乗り換えつつあり、他方NVIDIAはOpenCLに賛同しつつCUDAの普及をあきらめていない。Intelは既存のGPUは性能的に話にならないが、Intel MIC Architectureの世代でキャスティングボートを握るべく、こちらもOpenCLに準拠すると言いつつ独自APIも推進している。こうした状況でAMDが単独で標準の座を取るのは難しい。ところがARM陣営と手を組むことにより、いきなりマーケットシェアの見方が変わってくる。HSA FoundationでARM陣営を取り込んだことにより、HSAに対応するベンダーは猛烈に増えることになる。今回、ARMベースのSoCを提供する他の大手SoCベンダー(Freescale、ST-Erricson、Samsung、等々)はいずれもコメントを寄せておらず静観の構えだが、ARMそのものが参画した以上、ARMコアのライセンスを受けたベンダーはいずれもHSAを簡単に使える環境がいずれ入手できる訳で、これを使わないという案はない。そしてこうしたベンダーが増えたら、大手SoCベンダーも何らかの対応を考える必要はあるだろう。こうした形でインフラが出来、それが広がってゆけば、業界標準の座の獲得はかなり現実的である。というよりも、AMDが業界標準の座を獲得できる方法はこれしかなかった、というのが正しいかもしれない。
HSA Foundationに関するプレゼンテーションの最後のメッセージはこれ(Photo08)である。このメッセージに向けて、AMDは水面下でいろいろな策を講じており、今回AFDSのセッションの中でその一端が明らかにされた。次は具体的にどんな策をAMDは用意したか、をお伝えしたい。