ヤマハの有志が開発している、開発歌声合成ソフト「VOCALOID(ボーカロイド)」を、鍵盤楽器のように弾くことのできるデバイス「VOCALOIDキーボード」。前回の記事に引き続き、歌声合成ソフト「VOCALOID」を“弾く”という発想が生まれた背景を追っていく。

「VOCALOID」はクリエイターの登竜門

歌声合成ソフト「VOCALOID」を用いて作られた楽曲は、総体として「ボカロ曲」と認識され、ニコニコ動画を中心に数多く発表されている。人気を集めた楽曲は音楽レーベルからCDがリリースされることも少なくないため、クリエイターの登竜門となっている側面もある。

人気ボーカロイド楽曲には「絵師(巧みなイラストを描く人を指すネット用語)」がイラストやアニメーションで作り上げたPVが付随することも多い。クリプトンが個人による二次創作を認めたガイドラインを公開したことも手伝って、オリジナルの絵柄とは異なるPV発のキャラクターも多く誕生した。これらのキャラクターたちは曲の世界観と相まって人気を集め、「○○(曲名)バージョンのミク」に愛着を持つ人も多い。

その一例として、悪ノPが手がけた「悪ノ娘」という楽曲シリーズが挙げられる。独特の設定とストーリーが好評を集めたことで、CDの発売のみならず、小説を発売するなどクロスメディア展開を行うまでに至ったのだ。

悪ノPが作り出した楽曲「悪ノ娘」シリーズはVOCALOIDキャラクターに独自の設定を付与したファンタジー作品で、CDのみならず連作小説も展開。これは3月22日に発売された「悪ノ娘 青のプレファッチオ」特設ページ

「初音ミク」のキャラクターデザインを行ったイラストレーター・KEIも、ミクを描いたことで知名度を一気に高めた。また、VOCALOID楽曲の2次創作を手がけたことから名を知られるようになった「絵師」も多い。「初音ミク」の登場は、音楽分野のみならず、イラストレーションの分野にも影響を与えていると言えそうだ。

「VOCALOID」を直感的操作で操る新ツールへ

「初音ミク」から始まった「VOCALOID」のキャラクター展開は、歌声合成ソフトという比較的ニッチ市場向けの専門ソフトでありながら、専門技術を知らない層にも「ソフトを買って歌を作ってみたい」というニーズを引き起こした珍しい例である。その一方で、思い通りの歌を作り出すには、DTMの基礎知識を習得する必要があるのも事実だ。

「VOCALOIDキーボード」開発チームを率いるヤマハの加々見翔太さんによれば、「キャラクターを入り口に興味を持って購入してくださった方から、もっと直感的にVOCALOIDを扱いたいというご意見を耳にしたことがあります」とのこと。そんな希望を叶える可能性を秘めているのが、VOCALOIDを楽器のように操ることができるデバイス「VOCALOIDキーボード」である。

次回は、ヤマハの有志チームが開発した「VOCALOIDキーボード」の機能と、4月28日~29日に開催されたイベント「ニコニコ超会議」での展示の様子をお届けする。