携帯電話の利用が健康に及ぼす影響については複数の調査結果や説が公開されているが、今年10月にデンマークから新たな研究結果が発表された。同研究は、17年間のデータに基づき「携帯電話の利用により発がんリスクが増すことはない」という結論を導いており、今年5月に世界保健機関(WHO)が出した見解と対立する形となった。

この調査はデンマークのInstitute of Cancer Epidemiologyが行ったもので、1990年から2007年の間、デンマークの国民全体を対象にがん患者と携帯電話の利用とのデータを調べたもの。調査結果は、British Medical Journalが10月20日に発表した。

デンマークは国民背番号制をとっており、個人に固有のID番号が与えられている。このID番号は医療機関はもとより、携帯電話サービスの契約などさまざまな場面で利用されている。今回、研究者はこのID番号を利用して、がん患者として治療を受けた人と1995年以前に携帯電話サービスに契約した人のデータを調べた。

それによると、この期間に携帯電話サービスに加入していたのは35万8403人、電話の利用は約380万人、中枢神経系に腫瘍が認められた人は1万729人だった。10年以上携帯電話サービスに加入している場合の罹患率比(携帯電話の利用により罹患率が何倍になったのかという割合)を見ると、神経膠腫は男女共に1.04、髄膜腫は男性が0.9、女性は0.93だった。13年以上携帯電話サービスに加入している場合でも、罹患率比は男性が1.03、女性は0.91だった。

いずれも罹患率比が1に近いことから、研究者らは「携帯電話の利用が中枢神経系の腫瘍のリスクの増加につながる様子はない」との結論を出している。

電磁波を発する携帯電話は、耳に当てて使うという特性から、登場以来これまで、健康への害が心配されてきた。さまざまなデータがあったが、今年5月のWHOの国際がん研究機関が脳腫瘍リスクについて限定的な証拠が認められるとしたことで、方向性が定まったかに見えた。

一方で、携帯電話側は変化しており、われわれの使い方も当初から変わっている。10年前なら主として通話のために耳に当てる端末だったが、いまではデータ通信が主流。先進国のユーザーを中心に、液晶画面を見つめる時間の方が長くなっている。これにあわせて、「スマホとタブレットの長期利用が視力に与える影響」などのように、調査分野も変化するかもしれない。