一般企業の3倍以上のITプロジェクト成功率

本社を置く東京用賀のビル

iPhoneを営業支援ツールとして導入したコヴィディエン  グループ ジャパンは、ITプロジェクト成功率96%を誇る企業でもある。ここではその秘訣と、成功の一例としてiPhone導入について紹介しよう。

コヴィディエン グループ ジャパンは、医療機器、医薬品、メディカルサプライなどを扱うヘルスケアカンパニーであるコヴィディエンの日本法人だ。海外で開発された先進的な医療機器を取り扱うことを特徴としているが、もう1つ大きな特徴がある。それが、ITプロジェクト成功率の高さだ。

コヴィディエン グループ ジャパン 情報サービス本部 本部長 松井潤氏

企業が自社のシステムに対してITプロジェクトを行った場合、その投資に見合う十分なパフォーマンスを得られたというケースは意外に少ない。統計によってその数値は異なってくるが、一般に3割程度の成功率といわれている。

「1つのプロジェクトの成功率が3割ならば、3つのプロジェクトすべて成功できる確率はわずか2.7%ということになります。ところが、コヴィディエン グループ ジャパンでは96%の成功率です」と、情報サービス本部 本部長である松井潤氏は胸を張る。

グローバルスタンダードを積極的に導入

IT投資が不成功に終われば、システムに何らかの不具合が出たり、使いにくさを感じるなど、当初の目的を達成することができないまま我慢して使い続けることになる。これに対して同社では、毎日快適に利用できるシステムが構築されているのだ。

成功の秘訣は何なのかという問いに対して松井氏が挙げたのは、グローバルスタンダードであるスキームを積極的に取り入れるというものだった。

「グローバルスタンダードがなぜグローバルスタンダードなのかといえば、良いものだからこそ広く取り入れられ、普及した結果だからです。世界の知識・頭脳が集まって十分に叩いたグローバルスタンダードを活用することで、プロジェクトの成功率を上げることができました」と松井氏は説明する。

実際に取り入れているものとしては、PMBOK(Project Management Body Of Knowledge)、COBIT(Control Objectives for Information and related Technology)、SDLC(Systems Development Life Cycle)、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)などがある。すべてを完全に取り入れることは難しいが、それを学び、取り入れようという姿勢が大切なのだという。

「私は部下に向かっていつも『君たちは将来どうしたいのか?』と聞きます。『CIOになりたいんじゃないのか?』と言うわけです。大抵は、なりたいという答えが返ってきます。誰だって最終的にはトップに立ちたい。だったら、自分の言葉でグローバルスタンダードのフィロソフィーを語れる人になりなさい、勉強をしなさい、と言うのです」と松井氏。将来の目標を持って積極的に学ぶ姿勢こそが、学んだものを本当に身に付けることができる決め手なのだろう。

iPhone導入までに2年以上かかる

さまざまなシステム導入を成功させてきた同社が昨年導入したのが、iPhoneを活用した営業支援システムだ。医療系の営業担当者は、毎日多忙な医師の数十秒、1分というわずかな空き時間をとらえ、短時間で製品をアピールしなければならない。それをサポートするため、動画などをiPhoneの画面で見せるシステムが作られたのだ。

松井氏がiPhoneに注目したのは、iPhone 3Gが日本で販売されることが決定した直後のことだったという。

「弊社はグローバルではBlackBerryを標準で使用していましたが、日本ではコストの関係で携帯電話を使っていました。そこにiPhone 3Gが登場し、これは使えるんじゃないかと目を付けたわけです」と松井氏は振り返る。しかし、すぐに導入には至らなかったという。

導入済のiPhone4を手にする松井氏

「コヴィディエンでは、使ってよい端末、使ってよい技術をすべてグローバルで統一しています。BlackBerryと比較するとiPhoneやiPadはセキュリティの問題があり、当時は利用してもよい端末になっていませんでした」と松井氏。iPhone登場以前に米国ではiPod touchを活用した例があり、小さな画面でも動画のアピール力が大きいことを感じていた松井氏は、粘り強く本部の説得を繰り返したという。

「1年半ほどかかりましたが、米国の一部部署でiPhoneやiPadを試験導入したことをきっかけに導入への道が開けました。10カ月ほどパイロット的に利用し、2010年に8月にiPhone4を全社的に1,000台導入したのです」と松井氏は語る。iPhoneという端末に注目してから導入にまで、2年以上かかったことになる。

iPhoneは病院での商品の棚卸でも利用されている。この画面は、病院の棚卸在庫をまだ読み込んでない(Inventory Record 0)の画面

バーコードリーダーを使って棚卸在庫を読み込んだ画面

ストック情報と棚卸在庫が照合できた画面

データ送信した画面

積極的な取り組みと入念な準備で成功を導き出す

セキュリティ面は、リバースプロキシを採用することで必要な情報のみにアクセスできる環境を実現して解決。外出先からはメールの送受信と共有スケジュールの確認が可能となった。動画は以前からノートPCで使っていたものを、iTunes経由でiPhoneに転送して利用している。

「iPhoneは起動が速いため、短時間でも動画を使ったPRができるようになりました。スケジュール共有は以前からあるExchangeを利用したものですが、外出先でも簡単に確認できるという利便性から活用する部署が増えました」と、松井氏は導入の成功を喜ぶ。

本格導入まで、実際の導入を見据えて10カ月という長い時間をかけてテストしていることも成功につながったのだろう。

さらに導入に際しては、多く画面ショットを盛り込んだわかりやすいマニュアルを手作りし、専用のヘルプデスクを設けるといったきめ細かな支援体制を整え、導入をサポートしている。さらに、社内では部署横断グループも作られ、よりよい活用法を探り、作業効率を高める取り組みも行われている。

導入をスムーズに行うために作成された手づくりのマニュアル

積極的なグローバルスタンダードの導入とじっくりと取り組む姿勢により、96%という高いITプロジェクト成功率が導き出されているのだ。