日本オラクル クラウド&EA統括本部 クラウド・エバンジェリスト 中嶋一樹氏

日本オラクルは12月9日、同社が提供するクラウド基盤構築技術に関する説明会を開催した。今回紹介された技術は

  1. データベースのグリッド化を推進するRAC(Real Application Clusters)
  2. ストレージのグリッド化を推進するASM(Automatic Storage Management)
  3. データの重複排除を行うZFS De-duplication

の3つ。説明を行った日本オラクル クラウド&EA統括本部 クラウド・エバンジェリスト 中嶋一樹氏は「クラウドコンピューティングの最大の特徴はエラスティック(elastic)であること。つまり、伸縮自在で透過的でなくてはならない。オラクルの技術はまさにエラスティックで高密度なクラウドインフラを構築することを可能にする」としている。また、これらの技術を無料で試用できるフレームワークもそれぞれ用意しているという。

以下、この3つの技術の概要を簡単に紹介したい。

テンプレートでアプリケーションをデリバリするのがオラクルのミッション

Oracle Realtime Application Clusters(以下、RAC)は、データベースのクラスタ化を実現するOracle Database 11gの機能である。複数のデータベースインスタンス(VM)をあたかも1つのデータベースのように扱うことができる。フェイルオーバー、負荷分散などはもちろん、VMの追加/削除も自在に行えるという拡張性の高さもあわせもつ。ユーザは接続していたノードに障害が発生しても、RACを導入していれば「ほとんど気づくことがない」(中嶋氏)という

このRACをもっとユーザに使ってほしい、と中嶋氏は言う。だが、RACのインストールや設定は意外と面倒で、これが普及の障害になっていた。そこで米Oracleは11月、RACの導入を簡素化するイメージを「Oracle VM Templates」の1テンプレートとして開発、提供を開始している。

RAC用のVMテンプレートには、Oracle RACの設定に必要な要素がすべて詰め込まれており、構築/運用のフローもすべて自動化されてという。したがって、ユーザはVMテンプレートをダウンロードしたあと、これを起動してホスト名やIPアドレスなどの情報を入力するだけでRACが使えるようになる。「慣れれば40分程度で設定可能」(中嶋氏)とのことだ。

VM Templateを使うとRACのインストール作業が大幅に簡略化される

Oracle RACのほかにも、Oracle Database 11g、Oracle VM ManagerやアプリケーションのE-Business Suite、JD Edwards、PeopleSoft、Siebel CRMなどのVMテンプレートが揃っている。これらを使えば、インストール作業だけでなく、その後の構築/運用もEnterprise Managerを通して一元管理できるようになる。「テンプレートですべてのアプリケーションをデリバリすることがオラクルのミッションだと考えている。今後も主要なアプリケーションに関しては、積極的にテンプレート化を図っていく」(中嶋氏)としている。

現在オラクルが提供するOracle VM Templates一覧

ストレージのグリッド化はI/Oレベルがポイント

データベースのグリッド化を進めるオラクルが、同時に推進している技術がストレージのグリッド化だ。オラクルは複数のストレージをあたかも1台のストレージのように管理する機能"ASM"をOracle RAC VMにバンドルしている。ASMの概念はRACとほとんど同じで、管理するストレージの構成が変更されると、データの再配置や負荷分散を自動で行うというもの。たとえばストレージの1台が物理的に壊れた場合、そのストレージは自動的に切り離されるが、データは冗長化/分散化されているため、ユーザ側は支障なく運用を続けられる。また冗長化モードも二重化、三重化…と選択することが可能だ。

そして、ストレージのグリッド化において重要となるのは、管理するストレージの容量よりも「I/Oレベルを保つこと」だと中嶋氏は説明する。扱える容量が増えても、読み込み速度が遅くなっては意味がない。ASMは「仮に6,000IOPSのストレージが2台接続されたら、1万2,000IOPSを実現できるようにしている」とのことだ。

LUNとサーバのあいだにディスクグループを作成し、グリッド化を実現するASM。サーバの容量が増えてもI/Oレベルが保たれているところが特徴

また、ASMはFC、iSCSI、NFS、インフィニバンドなど接続インタフェースを問わないため、異なるディスクを連結させることも可能だ。安価なNASを複数台グリッド化することでコストを下げる、といったことも実現しやすくなる。

このASMを30日間、無料で試用できるフレームワークがオラクルから提供されている。それが「Unified Storage Simulator」で、ダウンロードして起動するだけでOKという簡単なもの。「直感的なユーザインタフェースで、導入を見据えた操作感を確認できる」(中嶋氏)ツールとのことだ。

直感的でわかりやすい操作性が特徴のUnified Storage Simulator

ブロックベースの重複排除技術"ZFS De-duplication"

Sunを買収したことによってOracleが手にした技術のひとつに「Sun ZFS DStorage」がある。これに含まれる標準機能に「ZFS De-duplication」があり、ブロックベースでの重複排除を実現する。とくに有効なのは「重複ブロックが多数見込まれる、I/Oが多発しない部分」、たとえばOSイメージ部分などには最適な圧縮だとしている。

重複排除はオーバーヘッドがかかるため、オラクルはデータベースには専用の圧縮技術を提供している。「この棲み分けができているのはオラクルならでは」と他社との差別化を強調する。

このDe-duplication機能も、前述のUnified Storage Simulatorのほか、SolarisエンジニアであればSolaris 11のプレビュー版である「Solaris 11 Express」で試すことが可能だ。

***

クラウドコンピューティングと聞くと、まず頭に思い浮かぶのは「コスト削減」、そして「迅速な導入」といったところだろう。だが、クラウドがこれまでのASPやSaaSと異なる点は、伸縮性/拡張性に富んでいること - すなわち"エラスティック"であることだとオラクルは提唱する。エラスティックとは、拡張だけでなく、ハードウェアのダウンや機材の削除、といった"縮小"にも対応できなくてはならない。これをできるだけ容易に実現する技術としてオラクルが提供するものが今回紹介した技術となる。「雲(クラウド)の向こうにある、要素技術を実際にユーザ側がさわることができるようにする」(日本オラクル 常務執行役員 テクノロジー製品事業統括本部長 兼 クラウド&EA統括本部長 三澤智光氏)試みとして興味深い。