香港で開幕した「Mobile Asia Congress 2010」の基調講演で、NTTドコモの山田隆持社長が登壇し、今後の携帯業界の展望について語った。

山田隆持社長

山田社長は、台湾HTCのCEOであるPeter Chou氏、チャイナモバイルのLi Yue会長兼CEOとともにスピーチを行い、さらにパネルディスカッションも行った。

山田社長は冒頭、世界でモバイルユーザーが50億人を超えている中、日本では100%が3Gを利用しており、3Gの普及率が世界で最も高いと指摘。その原動力となったのがモバイルアプリの進化だったと話す。

パネルディスカッションにのぞむ山田社長(右)。左から2番目がPeter Shou CEO、3番目がLi Yue会長兼CEO。一番左はモデレーターのHutchison Whampoa GroupのCraig Ehrlich氏

1999年に導入したiモードに始まり、2001年からはJavaベースのiモードアプリを提供。着メロや着うた、おサイフケータイなど、アプリ機能以外の強化を行って来た結果、ARPU全体の50%近くがデータによるもので、さらにモバイルコンテンツサービスからの収益が09年で5,500億円にも達したとして、成熟した市場となって成功していると強調する。

3Gデバイスの普及率。日本が最も普及している

様々なサービスを投入したことで、直近のデータARPUは全体の48.8%に達した

これに対して、スマートフォン市場の拡大によって、ドコモの戦略も変更を余儀なくされている。山田社長は、世界では14年までに従来の携帯電話(フィーチャーフォン)の台数をスマートフォンが追い越し、日本でも同様の傾向になると見ている。

モバイルコンテンツ市場は昨年で5,500億円

スマートフォンの販売台数は、14年にもフィーチャーフォンを上回る予測

特にスマートフォンでは、これまでドコモが提供してきたアプリをiPhoneのアップル、AndroidのGoogleがプラットフォームを提供するようになり、「キャリアがどうやってこのビジネス環境の変化に対処するか」(山田社長)という課題をあげる。

登場以来、急速に数を伸ばすiOSアプリとAndroidアプリ

山田社長は、「ユニークで競争力のあるサービス」をキャリアが提供することが「一番重要だ」と指摘する。例えばiモードで人気のサービスの提供に加え、キャリアでしかできない付加価値を提供することを重視する。

山田社長は「個人認証の機能」を例に出し、契約情報を抱えるキャリアだからこそ、それによって個人を認証できるという点が強みだとした。回線だけを提供する、いわゆる「土管」化するのを避けたい考えで、「ユニークな価値の提供で競争力を出せる」と山田社長は力を込める。

山田社長は、フィーチャーフォンに対してスマートフォンの良さであるオープンアプリの考え方を持ち込んだiモード阪ドコモマーケットやLTEサービスの「Xi」も紹介。スマートフォンだけでなく、フィーチャーフォンの向上、ネットワークの高機能化を重要視する。

端末の位置情報や無線情報と、認証、課金などの付加価値を付け加えて、ユニークな価値を提供する

フィーチャーフォンの良さをスマートフォンに導入してユーザーニーズに応えていく

山田社長は、携帯電話市場が成熟した市場と言われる中、国内で下がり続けてきた音声ARPUの減少をデータARPUの上昇が補えなかった点に関して、「今後は違うと思っている」と指摘する。スマートフォンの登場にともなってモバイルコンテンツもさらにリッチになり、データ利用量が増えることに伴い、山田社長は「今年度には音声ARPUをデータARPUが超える」という目標を述べた。

端末の拡充だけでなく、高品質のネットワークを構築し、アプリケーションのポータルとなるサイトを作り出すことで、土管化を免れたい考えだ

これは、海外の状況も同様だという認識を山田社長は示し、成熟市場における携帯キャリアの成長曲線が、12年頃から再び上昇するという予測を披露している。

チャイナモバイルのYue会長も、売上は09年の2けた成長に対して今年はデータ利用の伸びが倍増したにもかかわらず、1けた成長にとどまり、データの利用量ほど収益が上がらなかったとの現状を示し、「スマートフォンの利用が伸びるに従って、収益も上がる」との期待感を見せた。

端末メーカーであるHTCのChou CEOは、携帯キャリアがビジネスのやり方を変え始め、「新しいビジネスを可能にしている」との認識で、特に携帯キャリアは「消費者と直接コンタクトを取れる」という位置づけを強みとしてあげている。Yue会長は、モバイル市場においては様々な産業がプレイヤーとして参加するため、こうした各業界との橋渡しとしての役割の重要性を指摘。山田社長も、金融や環境対策、教育、健康、安心安全といった分野で各業界と連携できるポテンシャルがある、と述べた。

また、高速・大容量に加えて低遅延のLTEでは、クラウドサービスとの連携がさらに便利になり、遅延が少なくクラウドからのレスポンスが返ってくることで、「端末で処理しているような」ものになる、と山田社長は強調。Chou CEOも、自社の「HTCSence.com」をはじめとしたクラウドサービスや、ソーシャルコミュニティという「新しい波」が到来しており、それに対応するための「オープンマインドが重要」と指摘している。