高校生を対象とした世界最大規模の科学コンテスト「Intel ISEF (Intel International Science and Engineering Fair)」についてお伝えするレポートの第3弾では、日本からの参加者たちの様子や研究内容などをお伝えする。

国際科学チャレンジ『Intel ISEF 2010』取材レポート

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トリプル受賞の筑波大学生に、インテルとグーグルが注目!

オープニングセレモニーが開催された5月10日、研究内容の展示準備を終えたばかりの西田惇さんのブースを訪れてみると、なんとなく周囲がざわついていた。どうやらインテルのCEO ポール・オッテリーニ氏が、セレモニー開催前の時間の合間を縫っていくつかの展示を回り、ファイナリストたちに直接ヒアリングを行うという。そしてオッテリーニ氏が、興味を示し選択した10組のファイナリストたち中に、日本から参加した西田さんのプロジェクトが含まれていた。

現在、筑波大学1年の西田惇さん(参加決定時は奈良女子大学附属中等教育学校3年)は、昨年日本で行われた「ジャパン・サイエンス&エンジニアリング・チャレンジ (JSEC)」で科学技術政策担当大臣賞を受賞し、今回のISEFへの参加につながった。「筋電位計測システムの開発とその応用 その2」と題した西田さんの研究は、主に腕の動作によってコンピュータを直感的に操作できるようにする低価格な筋電位計測システムの開発で、さらにその応用としてゲームコントローラやリモコンカーなど9種のデバイスを製作しテストを行い、実用性を実証したものだ。

リベンジをかけた今年は、新たに改良された筋電位の増幅回路とノイズ除去フィルター、フーリエ解析を用いた筋電位のしきい値判定アルゴリズムを独自で開発し、実際に9種類のデバイスを製作して、その実用性を実証した

西田さんは、昨年のISEFにも同テーマでの参加が決まっていたのだが、新型インフルエンザの流行で、直前になり日本人の参加が中止となった。「大変楽しみにしていたため、『もういいや!』と、ちょっと投げやりな気持ちになりかけていた」と、数日間はかなり落ち込んだという。だが周囲の応援もあって、もう一度チャレンジしようと研究を続け、再びISEFへの参加権を獲得した。リベンジをかけ、かなり気合いを入れて、英語でのプレゼンテーションや質疑応答などの準備もしてきたそうだ。

西田さんが、ブースでプレゼンテーションの練習を行っていると、そこに米国内から来た高校生ファイナリストと教員がやってきて、研究内容をしげしげと眺め入った後、西田さんに「特許はもうとったのかい?」と聞いた。「まだ」と答えると「早くしたほうがいい。知っているとは思うけれど、(iPhoneを取り出して)このタッチパネルだって何だって、とにかく特許、特許が大事だよ! 英語で発表資料があるのだから、それを出せばいい。申請するべきだよ」と強く言っていた。このやり取りを聞いていて、日本では、これほどまでに生徒に特許を勧める先生はいるのだろうかとふと思った。

それにしても西田さんは英語が上手い。流暢に話すので訊ねたところ、「中学生の頃から漠然とではあるが『英語ができないとだめだ』という思いを持った。英語は授業を中心に何回も繰り返し勉強したけれど、留学経験などはありません」という。頼もしくもあり、楽しみだと思った。研究成果を披露するうえで英語力は、やはり大変重要だからだ。

さて、いよいよ、オッテリーニ氏が西田さんのブースを訪れた。インテルCIOであるダイアン・ブライアント氏も一緒だ。二人は西田さんから研究についてのひととおりの説明を受けた後、興味深く質問をいくつもしていた。

CEOオッテリーニ氏とCIOブライアント氏からの質問に答える西田さん。関係者によれば、こうしたインテルVPの個別訪問は毎回数件あるが、日本人では西田さんが初めてとのことだ

オッテリーニ氏らが立ち去った後、今度はぶらりと別の人がブースを訪れた。かなり真剣に説明文も読み、写真を撮ったりしている。聞いてみると、グーグルのプロダクト企画の担当者だった。今回グーグルの提供するスペースに、お遊び用として「アンドロイド携帯を使ったリモコンカー」が複数台置かれていたのだが、それを作ったのが彼だという。それを聞いた西田さん、自分もアンドロイド携帯のプログラミングを試してみていると、積極的に話をしていた。

ふらっと立ち寄ったグーグル社員も、長時間、西田さんの研究に見入っていた

西田さんの研究は、材料・生体工学部門優秀賞3位を受賞、また特別賞として、知的財産法協会賞2位とアジレント・テクノロジー賞のトリプル受賞という快挙を果たした。「やはり出るからにはという気持ちがあったので、受賞はとてもうれしい」と西田さんは語る。しかし、本音は「3位で名前が呼ばれた時は悔しかった」そうだ。知的財産法協会や企業に評価された点については「たいへん驚いています。特許の話など含めて、これまで研究の際に自分では意識をしていなかった部分を意識することができた」。今後は「この研究については一度、ここで区切りつけて、新しいものにチャレンジしたい。次はアンドロイドやiPhoneなどのモバイルプラットフォームを使って何かやりたい」という。

「筋電位計測システムの開発とその応用 その2」で、材料・生体工学部門 優秀賞3位他、トリプル受賞。特に腕の動作によってコンピュータを直感的に操作できるようにするシステムの研究が注目を集めた

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