これからは人を中心としたコラボレーション環境が必要

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア・エバンジェリスト 行木陽子氏

川原氏が説明した後は、3人のソフトウェア・エバンジェリストから技術解説が行われた。トップバッターを飾ったのはソーシャルウェアを担当する行木氏だ。

同氏はまず、「ソーシャルウェアはコンシューマー向けのツールと言われているが、Facebookをはじめ、その普及率を考えると、企業にとっても重要なツール」と述べた。

企業における情報共有の課題として、「人(個人)を中心としたコラボレーション環境が必要であること」を挙げた。例えば、米Gartnerの調査では、社内の情報の80%が個人のPCや頭の中にあるという結果が出ており、その人が辞めると失われてしまうことになる。

また、あと数年すると、「デジタルネイティブ」と呼ばれる幼少時からITに親しんでおり水や空気のようにWebを使いこなす若者たちが企業の要となる時代になるため、彼らが力を発揮できるためのコラボレーションインフラも必要だという。

こうした背景を踏まえ、同社が提供している代表的な統合ソーシャルウェア製品に「Lotus Connections」がある。同製品ではプロフィールから個人のすべての情報を収集することができ、その人の属する組織やレポートラインなど"社内ネットワーク"を把握することが可能だ。また、同製品はNotesとの連携も可能で、Notesのメール上で差出人のビジネスカードを表示したりといったことも行える。

加えて、同社内では、クラウドコンピューティングを活用してソーシャルウェアに関する新たな試みを実施している。同氏はその例として、ソーシャルネットワークを分析して可視化する「Small Blue Suite」を紹介した。

例えば、直接は知らないけれど連絡をとりたい人をSmall Blueで探すと、自分からその人に至るまでの人間関係が示される。これにより、自分に近い人からその人を紹介してもらうことで、業務をスムーズに進めることが可能になる。

Small Blue Suiteの画面。自分を機転に、関係が深い順から人間関係がらせん状で示されるなど、効果的な視覚表示が用いられている

同氏は「企業におけるソーシャルウェア導入のカギは定量的な効果を示せるかどうか」と説明した。つまり、ROIを示せないと導入には至らないというわけだ。これまで有効だった「ソーシャル効果」には、「情報検索にかかる時間の短縮」「顧客への回答時間の短縮」「出張の削減」などがあったという。

過去と現在の分析に加えて予測と最適化まで実施

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア・エバンジェリスト 中林紀彦氏

次に登場したのは、BAO(ビジネス・アナリティクスと最適化)を担当する中林紀彦氏だ。同氏は、BAOとは「過去から現在までの情報を分析する"ビジネスインテリジェンス"に加えて、未来の予測や洞察を行い、さらに最適化を行うこと」と説明した。

BAOを支える製品としては、分析アプライアンス「IBM Smart Analytics System」、リアルタイムで大量のデータ分析を行う「InfoSphere Streams」、64ビット対応のインメモリ多次元データベース「Cognos TM1」、エンタープライズ・アーキテクチャ「Cognos 8 BI」、分析作業を自動化する「SPSS Modeler」、最適化エンジン「ILOG CPLEX」がある。

予測と最適化の例としては、ビルのエネルギー管理が紹介された。同社の箱崎ビルでは過去の実績に基づく予測に従ってエネルギー管理が行われている。「過去の天気・気候・湿度・フロアの稼働時間などをもとに予測が行われている。フロア、曜日、消灯時間を最適化することで、ビジネスの効率を落とさずにエネルギー管理を実現する」と同氏。

現在のところ、BAO製品は中国やブラジルといったGDPが高い国での導入が進んでいるという。同氏はその理由について、「日本の企業はすでにある程度BIの仕組みを持っているが、新興国は今からパッケージを使って作ろうとしている国が多いから」と説明した。

クラウドにおけるセキュリティ対策のキモは仮想環境の保護

日本アイ・ビー・エム ソフトウェア・エバンジェリスト 大西克美氏

最後は、セキュリティを担当する大西克美氏が説明を行った。同氏はIBMのセキュリティ分野における強みとして、「独自のフレームワークに基づいて、コンサルティングなどの上流設計から、製品を使った構築・運用を網羅したサービスを提供できること」だと述べた。

同社は、「人とアイデンティティ」「データ・情報」「アプリケーション・プロセス」「ネットワーク・サーバ・エンドポイント」「物理インフラストラクチャ」から構成されるセキュリティ・フレームワークを持っている。

同氏はクラウド環境で"勝ち組"になるためのポイントとして、堅牢な仮装環境を構築することを挙げた。「仮想環境では、仮想マシン間で不正アクセスが行われたら、ウイルスが感染するおそれがある。これが他社のマシンに感染したとなったら大変な事態だ」

同社は仮想環境向けのセキュリティ製品として、「IBM Virtual Server Security for VMware」を提供している。同製品では、X-Force Virtual Patch技術を仮想ネットワークに適用することでVM間の通信や外部からのVMに対する通信を保護するほか、ハイパーバイザーの乗っ取りを防止する。

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最近は、ソーシャルウェアの普及が著しいうえ、国内で人気が高かった同社のグループウェア「Notes」が他社製品に押され気味であることなどから、ソーシャルウェアのセッションでは質疑応答が活発に行われた。説明を聞いてみて、同社の製品は有償の企業向けソーシャルウェアということで、無償のソーシャルウェアにはない企業利用に適した機能が提供されていることがわかった。

ただ、セッションでも話題になっていたが、ソーシャルウェアの場合、業務での利用とプライベートでの利用が曖昧になりがちという課題もある。

次回があれば、今回はほとんど話に出てこなかったミドルウェア「WebSphere」シリーズの話が聞いてみたい。