イー・モバイルは6日、3.5G(3.5世代携帯電話)のDC-HSDPA技術を導入し、10月から下り通信速度を42Mbpsまで高速化させる新サービスを開始すると発表した。現時点で3Gとしては最速の通信速度となり、国内では初めての導入になるという。具体的な開始日時、端末、料金はすべて未定だ。

下り42Mbpsサービスを発表するエリック・ガン社長

今回イー・モバイルが導入するDC-HSDPAは、3G(W-CDMA)の下り速度高速化技術HSDPA(High-Speed Downlink Packet Access)による通信を2チャネル(デュアルチャネル)で行うことで、従来の下り21Mbpsの速度を倍増させるというもの。あくまでも理論値の最大速度であり、公開されたデモでは、室内で1つのDC-HSDPA実験端末を動かした場合で下り速度は最大40Mbpsを達成しており、安定した速度を実現していた。室内に設置した基地局で電波を発射している状況だが、イー・モバイル本社内で通常のネットワークもあり、同社では「商用環境において、国内で初めて下り40Mbpsを越えるスループットを実現した」としている。

通常はダウンリンクが1チャネルだが、それを2チャネルにするのがDC-HSDPA

実際にイー・モバイル本社で行われたデモ。安定して40Mbps以上が出ている

イー・モバイルは、これまでも「業界初」のサービスを展開しており、2007年3月には下り3.6Mbpsの完全定額サービス、同年12月末には下り7.2Mbpsサービスを発表。2009年4月にはHSUPAによる上り5.8Mbpsサービス、同年7月には21Mbpsサービスをそれぞれ開始している。そして今年10月にも開始する42Mbpsサービスも、その時点で「業界初になる」(エリック・ガン社長)という。

これまでイー・モバイルがスタートさせた「業界初」のサービス

同社は6月末時点で累計250万契約を達成し、「ほとんどがデータ通信のユーザー」(同)だが、ガン社長は、ヘビーユーザーの増加で通常のユーザーが圧迫され、全体の通信が遅くなってきていると指摘する。同社では8月にも、24時間当たり300万パケットを使うユーザーの21時から翌2時までの通信速度を制限する帯域制御を開始し、帯域確保を狙う。対象となるのは「契約者全体の1%未満」(阿部基成副社長)のユーザー。これまで帯域制御されていた1カ月で300GB以上を使うユーザーが全体の0.1%未満だったとのことで、ヘビーユーザーの対象者が拡大したということになる。

契約者の推移。6月末で250万契約を突破した

帯域制御しない場合、ヘビーユーザーの利用によって通常ユーザーの速度にも影響してしまう

帯域制御によって、トラック専用レーンを設ける

さらに42Mbpsサービスによってレーンを増やす、というイメージ

日本エリクソンのバイスプレジデントで、イー・モバイル事業本部長のモーガン・カービー氏は、「海外でもほとんどの事業者は公正な利用ポリシーを定めていて、帯域制御を実施している」と話し、イー・モバイルの方針に理解を求める。

この帯域制御は、「高速道路に例えれば、トラック(ヘビーユーザー)専用レーンを設けるようなもの」(ガン社長)で、さらに42Mbpsサービスの展開でレーンを増やし、従来の7.2Mbps、21Mbpsサービスのユーザーも速度向上が見込めるという。

この42Mbpsサービスは、イー・モバイルに割り当てられた1.7GHzの周波数帯の内の5MHz×2の10MHzをデュアルチャネルで送信し、通信速度を向上させるもので、既存の基地局に対してボードの追加やソフトウェアの改修を行うことで対応させる。当初は東名阪をはじめ、各地の100万都市を中心にサービスを展開し、約1年で人口カバー率を60~70%に拡大させる計画だ。

現在の最大21Mbpsのサービスでも、人の多い新宿駅、東京駅では他社より高速だったという

42Mbpsによって、さらに他社より高速化を実現する

料金プランは現時点で未定だが、今年12月にもNTTドコモが3.9Gの「LTE」サービスを開始する予定で、同サービスの動向も見ながら決定する。基本的にはフラットな定額制を推奨していくようだ。端末の詳細も明らかになっていないが、まずはPCに接続する端末になる模様。Pocket WiFiのようなポータブル無線LAN端末は検討中のようだ。端末は後方互換性を確保しており、既存のW-CDMAネットワークにも接続できる。

実験に使われたUSB接続の端末

ドコモがLTEを推進して、今年中にサービスを開始するのに対して、イー・モバイルではLTEの導入を2012年に計画している。ドコモのLTEは、サービス開始時に下り最大75Mbpsを予定しているが、DC-HSDPAでも下り最大42Mbpsとなり、速度的には遜色ないと判断。すでに成熟した技術であり、世界ですでに利用できるW-CDMA技術を使ったDC-HSDPAで先行していく狙いだ。阿部副社長は、海外でも普及する端末のLTE対応が2012年ごろに進み始めると予測しており、それにあわせてLTEを展開していきたい考えを示している。

LTEとHSDPAは、MIMOの利用などで同等の通信速度となる

W-CDMAが利用できる国と地域は世界に広がっている

エリクソンのモーガン氏は、「現在、世界の携帯契約数は50億だが、あらゆる端末に通信機能が付いて、これが500億に伸びる」と予測しており、データ通信に注力するイー・モバイルに追い風になると見る。LTEは現在、商用サービスは米国とスウェーデンの2カ国でしか始まっておらず、143カ国341事業者が展開しているW-CDMAと比べると大きな差がある。これによって開発コスト、海外ローミングなどの強力などで有利な点が多く、より効率の高いサービスと指摘している。

イー・モバイルの阿部基成副社長

日本エリクソンのモーガン・カービー氏

イー・モバイルでは、料金プランなどの詳細を、「そう遠くない内に発表できる」(阿部副社長)としている。