『超時空要塞マクロス』シリーズなどのアニメ作品でキャラクターデザインを手掛け、現在はイラストやマンガ制作で活躍している美樹本氏。初代『マクロス』の放送から27年目となった昨年は、雑誌『マクロスエース』(月間ガンダムエース増刊/角川書店)にて、デジタル環境で制作した作品『マクロス THE FIRST』の連載を開始した。ペンタブレットを中心とした現在の制作環境や、道具との付き合い方について、美樹本氏にお話を伺った。
8年前から液晶ペンタブレットで作品制作
――現在お使いのペンタブレットは何ですか?
美樹本晴彦(以下、美樹本)「一番最初に出た液晶ペンタブレットをずっと使っています。15インチ程度の小さいもので、もう液晶の端は黒ずんできていますね(笑)。7~8年使っています。マンガのほうのスタッフは、液晶ペンタブレット『Cintiq 21UX』です。スタッフのほうが大きくて新しいものを使っています」
――その前はどんなペンタブレットを使っていたのですか?
美樹本「使っていませんでした。どうしてもPCの画面を見ながら手元で描く、というのが馴染まなくて……」
――では、使い始めたのは液晶ペンタブレットの発売がきっかけだったのですね
美樹本「そうですね。板型のペンタブレットとは違って画面に直接描くことが出来るので、そこが使いやすいですね。その前も一部でCGを使ってはいたのですが、基本は手で紙に描いて、それを取り込んで加工するという使い方でした。液晶タブレットを使うようになったおかげで、PC画面上で彩色もするようになりました」
――現在は下描きからペンタブレットを使っているのでしょうか?
美樹本「いえ、下描きから主線までは手で描いて、彩色をデジタルで行っています。マンガの方については、デジタル作業はスタッフが行っています」
――制作環境をデジタル化したことで、作風に変化はありましたか?
美樹本「自分では変えているとは思っていませんし、むしろ手描きの時よりもクォリティは高くなっていると思います。ただ、自分で感じているよりも、長年見てくれている人は差を感じているかもしれませんね」
デジタルでもアナログでも好きなツールしか使わない
――彩色や仕上げには、主にどういったアプリケーションを使用しているのでしょうか?
美樹本「『Painter』と『Photoshop』ですね。Photoshopはまだ4.0です。一度、5か5.5に変えようとしたことはあるのですが、何か使いにくい部分があって結局戻りました。Painterはずっと6を使っていたのですが、たまに挙動がおかしくて最近になって7を使うようになりました。デザイナーさんですと新しい機能などをいろいろと使われるのかもしれませんが、僕は手描きのテイストと基本的に変えないように描いていますので、使う機能は限定されているんです。本当にごく一部しか使っていないと思います。だから、自分が不自由を感じない限りは、現行のままですね」
――「使う機能は限定されている」とのことですが、まだ試していない機能もあったりするのでしょうか?
美樹本「この間もマンガで、キャラクターにアクセサリーを付けてはどうかという話になったんです。時間も無いので、全て描くのは大変だろうと思ったのですが、『COMIC STUDIO』なんかでパーツをブラシにセットすればすぐ描けてしまうんですよね。もちろん、そのままでは使えないことも多いですけど。それをスタッフに見せてもらって"便利だね"と言ったら、"Painterとかでもできますよ"と言われてしまいました(笑)」
――アナログで制作されていた時期も、画材などは気に入ったものを長く使用されていたのでしょうか?
美樹本「最初は油性のマーカーを気に入って使っていたんです。昔は(アルコール性の)コピックのような便利な道具がありませんでしたから。その後、途中から限界を感じて絵の具に切り替えたんです。ガッシュから始めて、リキテックスが流行った時には便利だと聞いて使ってみたんですが、やっぱりダメだなと思って戻りました。カラーインクなども手は出してみたんですけど、放っておくと蒸発してしまって、管理が面倒なので使わなくなったりして。やはり馴染むものはそんなに幅広くないなと思います。好きなものしか使わないという(笑)……わがままですかね」
――今お使いのペンタブレットやソフトを使い続けている理由は何ですか?
美樹本「新しい製品は(現在使っているマシンの)Mac OS9では動かないという理由が大きいです。今の便利なものに慣れてしまうと昔のものは不便に思えるかもしれませんけど、自分ではさほど不自由を感じていませんので。まぁ、パソコンの方がいつまで保つか分からないので、そう遠くないうちに交換は必要になると思いますけど、積極的に変えたいとは思っていません。PCも入れ替え時かなと思ってはいますが、ペンタブレットを変えるとしたらソフトも変えないとダメですよね。絵の具なら、例えばアクリルを使ってみて"違うな"と思えば、途中で背景はインクにしてみたりガッシュに切り替えたりすることもできましたけど、CGは変えるとなると環境も整えなくてはならないし、それに慣れるにのも時間がかかりますよね」
――最新ではないデジタル環境で、クォリティの高い作品を制作されている様子は、"弘法筆を選ばず"という感じですね。
美樹本「使い続ける理由はいろいろありますが、やはり好きなものしか使っていないですね。結果的には、かなり選んでいるのだと思います」