米カリフォルニア州パロアルトにあるLala本社。現在はすでに移転済みなのか、誰かがいる気配はない

米AppleがiTunesのクラウド化を推進し、ユーザーの楽曲ライブラリをAppleサーバ上に集めることで、インターネットを介しWebブラウザやモバイル機器を使ってどこでも自分のプレイリストを楽しめる環境を作ろうとしている。同社が12月に米Lalaを買収したとき、その目的を巡ってさまざまな推測がなされたが、その姿がより現実のものになろうとしている。

Appleの音楽ビジネスの将来像を推測するのは、業界12年のベテランであるMichael Robertson氏だ。同氏はデジタル音楽配信の草分けともいえる「MP3.com」の創業者兼CEOだった人物で、現在はMP3tunesのCEOを務めている。また徐々に人気を集めつつあるGoogle Voiceのアドバイザーでもある。そんな同氏がTechCrunchに特別寄稿を行い、Appleの音楽ビジネスの近未来像について分析している。

長らく1曲99セントの楽曲売り切りモデルを続けてきたAppleのiTunes Storeだが、最近では月額契約でいくらでも楽曲を楽しめるサブスクリプションサービス(ただし契約をストップするとすべての楽曲は再生できなくなる)を展開するライバルらの存在もあり、以前ほどの圧倒的な存在感は薄れつつある。そのため、AppleがiTunesにサブスクリプション形態を導入するのではないかというのが、長年にわたっての業界の関心事だった。ところがRobertson氏はこの見解を否定し、Appleが近い将来にiTunesへの導入を検討しているサービスは、いくぶんか違ったものになると述べている。それがiTunesライブラリのクラウド化で、Amazon.comや他の同種のサービスを提供する企業と競合するものになるという。

その鍵を握るとみられるのが前述のLalaで、同社は10セントでの楽曲へのアクセスサービスを提供し、ユーザーは同社ストレージ内にある楽曲から好きなものをWebブラウザを介してストリーミング再生できる(ダウンロードは不可)。Lalaはすでに大手メジャーレーベルらとの契約を行っており、Appleのシェア独占に警戒感を抱くレコード業界の非難の矛先を避けつつ、Appleに新しいビジネスチャンスをもたらすことになるかもしれない。だがRobertson氏によれば、Lalaのライセンスは移転不可能のもので、オンライン接続が前提であることから当然iPodのようなデバイスでは利用できない。つまりレンタルサービスをiTunesに組み込むことは不可能なのだ。

Lalaについては面白い機能があり、サーバ上に存在しない楽曲はユーザー自身がアップロードしてストリーミング再生できるようになっている。このためのツールをLalaでは提供している。もしこれをiTunesに応用するなら、ユーザーのiTunes楽曲ライブラリをサーバ、つまりクラウド上にアップロードし、ユーザーはWebブラウザを介してどこでも楽曲を再生できる。もしオンライン接続ができる状態であれば、専用アプリを用意することでiPhone/iPod、そしてこれから発表されるとみられるタブレット型デバイスでもストリーミング再生が可能になる。iTunesの最新アップデートではこのための機能を搭載し、バックグラウンドでライブラリのクラウドへのアップロードを行い、ネットワークを介してあらゆる場所やデバイスで再生できるようになる -- これがRobertson氏の見解だ。同様の分析は米Wall Street JournalもAppleのLala買収直後に行っている

音楽の楽しみ方の幅を広げるのが近年のAppleの目標となっているが、Lalaはこれを補強するオプションとなるのだろうか。また音楽再生プレイヤーも、今後はネットワーク接続が前提となるのだろうか。楽曲はPCやデバイス内それぞれにデータを保持するというスタイルから、ネットワーク上の特定箇所に集約してリモートから再生するというスタイルへと移行する過渡期にあるのかもしれない。