3.憶えてもらえる(Remember)

皆さんは、「その場では理解したつもりになったが、最後に振り返ってみるとなんだかよく分からなかった」という経験はないでしょうか。これは、理解した内容が記憶として刻まれていないためです。これでは、コミュニケーションが成功したとは言えません。

記憶のロジックは、実に簡単で明確です。ポイントを説明しておきますので、ぜひ実践してください。

(1)伝えたいポイントをしつこく繰り返す

英単語を覚えることを想像してみてください。何度も何度も繰り返して頭に刻み付けると思います。コミュニケーションで記憶させる方法もそれと全く同じです。

もちろん、単に繰り返しているだけでは会話をしている相手が眠くなるだけですので、言い方や筋道を変えながら結果として伝えたいポイントを繰り返して話すことが重要なテクニックとなります。プレゼンテーション資料で同じビジュアルを繰り返し見せるといった方法も試してみてください。きっと良い結果が現れるはずです。

(2)例示/比喩を用いて印象づける

例示/比喩を織り交ぜると、さらに効果が上がります。英単語を覚える時に例文比較を見て理解するのと同じです。

覚えてもらえるコミュニケーションの極意は例示/比喩にあると言っても過言ではないと思いますし、できるコンサルタントほどこの部分が巧みで、資料が何もなくともすらすらと出てきます。

またプレゼン資料で特に充実させるべき部分は例示/比喩のビジュアル化です。例示/比喩は、実は口頭説明をすると非常に長い説明になることが多く、なかなかイメージさせづらいものですが、図示して説明すると瞬間に理解されます。さらにこれを繰り返すと、より記憶に残りやすくなります。

(3)自分自身を覚えてもらう

通常あまり気に留めない部分なのかもしれませんが、誰が話したのかというのも、とても重要なポイントになります。「誰が話したのか記憶がない…」というのが最悪の状況ですので、内容と併せて自身のことも相手の記憶に残すよう心掛けましょう。

話し方にわざと癖を出してみる、決まり文句を繰り返すなど、お客様の脳を刺激することが重要です。

私の場合はジョークをところどころに織り交ぜてフランクな雰囲気を作り出すようにしています。雰囲気作りで空間を支配して印象づけようというねらいです。

4.共感・納得してもらえる(Entertained)

ここまでうまくいったとして、もっとも重要なのは「どれだけ腹落ちしてもらえるか」「納得し共感が生まれているか」です。

皆さんにも「言っていることは正しいと思うが、何だか納得できない」という経験があると思います。これは、相手の伝えたいことが伝わり切れていない状況、すなわち、最終的な部分でコミュニケーション不足に陥っている状況だと言えます。

こうした状況に陥るのにはさまざまな原因が考えられますが、特に以下の2点に注意することで改善されるケースが少なくありません。

(1)お客様への目配り、気配り、心配りをする

相手の目を見て話し反応を見ながら、こちらの真摯な態度を納得してもらう。反応によっては話の構成を瞬時に組み直して理解を促し、相手にとって最も適切な言葉を選ぶなど、五感を総動員したコミュニケーションが重要です。

言いたいことを巧みに話すだけではコミュニケーションは上達しません。極意は相手の立場に立って話をすることです。

これは、1対1の会話でも当てはまりますが、1対Nの状況ではなおさら必要になってきます。

(2)自分自身の話を理解し、信じて、納得して話す

資料の引用やきれいごとばかりを並べて話しても、共感を得られることはないでしょう。提案するソリューションの内容を、まずは自分自身がしっかり理解し、それが正しいと信じたうえで、納得した結論を相手に伝える。これはプレゼンテーションの基本中の基本です。

もちろん誰もがわかっているはずですが、実のところ、実践できていない人も多いのではないでしょうか。

もちろん、実際のビジネスでは、社内の利害関係者やパートナーの状況に左右されることもあり、納得できない状況下での提案もあるとは思います。しかし、自分自身が信じて説明できないことを、お客様が理解してくれるとは思えません。

説明に熱意を込めるうえで、内容の理解とそれを信じることがどれほど重要か。改めて考えてほしいと思います。

*  *  *

以上、"提案を受け入れてもらえるコミュニケーション"として重要なポイントを説明させていただきました。私自身もまだまだソフトスキル修行中の身ですので偉そうなことは言えませんが、皆さんもこれらのコミュニケーションスキルを磨いてITコンサルティングに役立てていただければと思います。

最後に一言。「コミュニケーションの極意とは一期一会である」。これからもITコンサルタント(とりわけSAPコンサルタント)のスキルアップ、そして私自身のスキルアップのために、日々の活動の中から、学びの種を見つけていきたいと思います。

※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.7』に掲載された『5分でできるスキルアップ ~実践編~』を一部加筆のうえ転載したものです。

なお、『5分でできるスキルアップ』の動画コンテンツはこちらからご覧になれます。