PCの起動ボタンを押した後に、ユーザーが最初に目にするのはOSの起動アニメーションだ。OSの性能とは関係ないが、ユーザーのOSに対する印象に与える影響は大きく、メーカーが手を抜けない機能である。例えばMicrosoftはWindows Vistaで起動アニメーションのサウンド制作をキングクリムゾンのギタリストとして知られるロバート・フリップに依頼した。

起動アニメーションのデザインは凝ればいいというものではない。ファイルが大きくなりすぎて起動時間が長引くと、美しいデザインでもOSが遅い印象をユーザーに与えてしまう。「Windows 7」では、Vistaユーザーからのフィードバックを基に、ユーザーを飽きさせず、かつWindows 7の"個性"を現す起動アニメーションが作られた。Windows 7のエンジニアリング・ブログで、その裏話が紹介されている。

いきなり始まるWindowsアニメーション

Windows 7では、ブート中の限られたリソースの中で、ユーザーにきびきびと動くイメージを与えられるように起動アニメーションのステップが見直された。

まず現行のWindows Vistaの起動アニメーションは以下の通りだ。

  1. 緑色のプログレスバーが続く。
  2. サウンドと共に中央にWindowsフラッグの丸いアニメーション(Pearl)。
  3. Windowsフラッグの周囲が光る。
  4. ログオン画面。

グラフィックス・サブシステムとWindowsシェルをイニシャライズする過程に合わせて、ブートコードの読み込みが完了してから(2)のPearlアニメーション動作になる。そのため、しばらく続くプログレスバーが長い時間に感じられ、ディスプレイの切り替え(プログレスバー→Pearl)がぎこちない動作の印象をユーザーに与えている。またブートコードが完了してから再生されるWindowsアニメーション(Pearl)が起動時間を長引かせる原因にもなっている。

起動プロセス・インジケータのアップデートはCPUを介して行われるため、I/O待ち時間の影響を受けやすく、これもアニメーションの動作に支障をきたす。I/Oの負担を軽減するためにスクリーンサイズは640×480に抑えられており、また16bppと色に深みがない。

プログレスバーから始まるWindows Vistaの起動プロセス

Windows 7の起動アニメーションは以下の通りだ。

  1. 「Starting Windows」というテキストと共に4方向から4色の光が飛んできてWindowsフラッグになる。
  2. Windowsフラッグが鼓動するように動く。
  3. ログオン画面。

プログレスバーではなく、いきなりWindowsアニメーションが始まる。Windows 7の起動アニメーションはポインタをバッファリングするプロセスがファームウエア(BIOSまたはUEFI)から行われる。グラフィックスドライバがロードされる前に、CPUによってフレームバッファをアップデートしながらアニメーションが動作する。つまりカーネルと重要なデバイスドライバがメモリーにロードされるのと平行してWindowsアニメーションが表示されるのだ。(2)のWindowsフラッグの鼓動がプログレスを現す。Vistaのプログレスバーに比べると、鼓動による表現は躍動的で、待たされている感じが薄れる。またVistaのPearl再生のようなブートコード完了後のステップがなくなり、起動時間のムダが省かれた。

起動アニメーションのスクリーンサイズは1024×768、色深度は32bppだ。このイメージをWIM圧縮することで全体のファイルサイズを抑制。フレームレートを低めに設定してフレームバッファをアップデートする際のCPUのオーバーヘッドを切り詰め、起動時間への影響を最小限にまとめた。

Windowsアニメーションから始まるWindows 7の起動プロセス

起動サウンドを鳴らすステップもVistaと異なる。VistaではPearlアニメーションに同期して起動サウンドが再生される。Pearlアニメの段階でサウンドスタックのロードが求められるため、非力なハードウエアでデスクトップまでの時間が長引く原因になっていた。そこでWindows 7では起動サウンドの再生を非同期にし、ログオン・スクリーンがロードされた段階でいつでも再生できるようにした。

この再生タイミングは使用体験の向上というメリットもあるそうだ。Vistaユーザーからのフィードバックでは、起動サウンドの期待感を高める効果が認められていたものの、鳴ってからデスクトップまで待たされる印象も指摘されていた。

Windows 7を"光"と"エネルギー"で表現

デザイン面では、起動アニメーションがユーザーを引きつける役割を重視し、"独特の雰囲気"を備える「パーソナリティ (personality)」を重んじたという。Windows 7のパーソナリティとして「光(light)」と「エネルギー(energy)」に着目、さらにブレインストーミング・セッションでは「bioluminescence(生体発光)」「organic(オーガニック)」「humble beauty(謙虚な美しさ)」「atmosphere(空気・雰囲気)」などのキーワードが挙げられたそうだ。

20を超えるデザイン候補から、サンプルを作成し、社内レビューやユーザーテストを経て、最もエネルギーが表現されていたデザイン(4色の光りが飛んできてWindowsフラッグが鼓動)に決定した。

起動アニメーションの設計・デザインでは、いくつかの判断において幅広いハードウエアのサポートが優先された。それでも全てのハードウエアで全く同じような起動プロセスのユーザ体験を得られるわけではない。例えばフィードバックで、アニメーションが始まるまでの時間の差が指摘された。対策として開発チームは、アニメーションにテキストを組み合わせて、ハードウエアの違いによる印象の差を緩和した。今後もベータテストを通じて、このようなビジュアル体験の差を埋めていくという。なおユーザーからはオリジナルアニメーションによるカスタマイズを求める声が多数寄せられているというが、信頼性を確保するという理由からWindows 7ではサポートしないそうだ。