弓道の撮影にEX-FH20を使用することのメリットは2つある。1つはもちろん、高速連写機能とハイスピードムービーの撮影で、これは決して一般的なデジタル一眼レフカメラではできないことだ。もう1つは撮影時の静音性。これは弓道のみならず、精神の集中を求められる競技の撮影の際には全て言えることではあるが、シャッター音がないことは礼儀上非常に重要なことだ。電子シャッターを採用しているEX-FH20のようなタイプのカメラを使わないと、「会」や「離れ」のような高度な集中と緊張感のある空間にメカニカルなシャッター音が鳴り響くことになる。人の出入りの多い競技会ならともかく、昇段審査や矢渡しなどの会場でシャッター音を鳴らすのは避けたい。

弓道撮影のポイント

実は、冒頭の写真のように横位置で射手をバストアップのフレーミングで捉えた弓道の写真は多くない。前述したように弓を射るということは一連の流れであって、一部だけを切り取るということは写真としては美しいが、弓道の側から見るとあまり本質ではないからだ。的への的中はもちろんのことだが、上位者になるほど全身の構え、品格といったものを追求していくのが弓道なのだ(段位の審査基準を見ると高段ほど哲学的かつ抽象的になっていく)。しかし、撮影者が被写体としての弓道を見るとき、気の充実していく「会」の頃合い、的にむかって集中していく射手の目を写真として切り取りたいという欲求はもちろんある。

射手としては、せっかく写真を撮ってもらうのだから「弓道雑誌に載っているような」写真を希望することが多い。具体的にいえば、前ページのように縦位置で全身をいれたもので、特に「会」と「残心」の写真だ。

弓道写真の基本形。弓をぎりぎりまで引き絞る「会」のとき、ファインダー越しにも緊張感が伝わってくる。矢は放つものではなく自然と離れるもので、「上下左右に十分伸び合い気力丹田に八九分詰りたる時気合の発動により矢を発する」。フォトグラファーもその瞬間が感じられるようになれば良いのだが、それが判らないときのために超高速連写せざるを得ない

弓道をしないものから見れば、いわゆる"弓を引き絞っている"「会」の緊張感は判るものの、矢を射たあと体が開いている「残心」のタイミングは被写体としてはなかなか気がつかない。基本的に試合などでは2射づつ8射から12射することが多い。逆に言うとシャッターチャンスはそれしかない。バスケットボールの試合の写真ならば見せ場は予測不可能だが、逆に何度もある。弓道の場合、段取りはまったく同じなだけに事前に打ち合わせをして、「このときはすべての動きを高速連写」「次はムービー」「ここは芸術的に横位置で目をアップにするね」といったことを決めておかないと、あとで撮り足りていないシーンがでてきてしまうので注意が必要だ。

会から離れ、残心までの連続写真。40コマ/秒で撮影したものから抜粋。6コマ目に弦から離れ、ちょうど顔を横切る矢が写っている

ムービーを縦に撮る

テレビが横長なため、普通はムービーも横位置で撮る。しかし、テレビで見ることを前提としていない写真は縦構図のものもあれば横構図のものもある。それならばハイビジョンムービーを縦構図で撮るのも悪くない。パソコン画面でムービーを見るとき、全画面表示にしていなければムービーも再生ソフトのウィンドウの1つとして表示される。デジカメの縦位置の写真も同様なので、それほど違和感のあることでもない。

横位置で全身を撮影しようとすると、どうしても広角気味になり、周りの不要な風景が写ってしまい、肝心の被写体への注目が散漫になる。弓道の競技会のように数人が同時に並んでいる場合はなおさらだ。パソコンで鑑賞するのを前提に構図を縦にして撮影できるのもEX-FH20の嬉しいところだ。ビデオカメラではムービーを縦位置で撮影することはできるが(カメラを横倒しにすればよい)、最終的にテレビを倒すわけにはいかない。デジタルカメラでムービーを撮影すると後処理や鑑賞環境がパソコン前提になるので、新しいことにチャレンジできるのだ。……続きを読む

動画
EX-FH20でHD動画を撮影。ムービーを縦に撮ることで緊張感のある画が撮れた
同じ構図をEX-FH20のハイスピードムービーで撮影した