カシオ計算機は今年、「ハイスピード」をテーマにしたデジタルカメラを投入している。今年初めに「EX-F1」を発表し、そして9月には「EX-FH20」を発表した。撮像素子にCMOSを採用し、その特徴を生かして1秒間に数十枚という超高速連写や超スロー映像が撮影できるハイスピードムービーを実現した。

EX-FH20発表直後に行われた世界最大級のカメラ関係の展示会「photokina 2008」でもハイスピードは大いに関心を集めていた。今回、その手ごたえと今後の展開について、同社営業本部海外営業統轄部QV部金田公一部長、欧州カメラ事業でPRを担当する独Casio EuropeのDigital Imaging Office and School Equipment Marketing ManagerのStefan Romeyke氏とProduct ManagerのSigbert Laakmann氏に話を聞いた。

EX-FH20を持つRomeyke氏(左)とLaakmann氏

そもそもカシオが「ハイスピード」をテーマにカメラを開発したのは、「デジタルカメラマーケットが飽和して競合が厳しくなり、状況を変える必要」(金田氏)があったからだ。カシオには「単なる銀塩カメラからの置き換え」では限界に来ているという危機感があったと金田氏。そうした中から生まれたのが、「ハイスピードという新しい技術で、さらなる可能性にチャレンジしていきたい」(同)という考えだったという。

金田氏は、カシオのブランド力は海外では日本ほど高くなく、まだ発展途上にあるという。そこで今回のハイスピード製品をトリガーとして、カシオ事業の拡大にチャレンジしていきたいと話す。

金田公一部長

ただ、ドイツにはカシオの拠点があることもあって欧州の中でもシェアは高いそうだ。Romeyke氏によれば、カシオはドイツでシェアは10%以上を確保し、2~3位の位置を占めているという。

また、欧州には他のエリアにはない特徴があり、一眼レフカメラや高倍率カメラのような、いわゆるコンパクトデジタルカメラではないカメラへの関心度が高いのだという。その点でも、今回のF1/FH20は、製品ラインアップの幅が広がったことで評価も受けているのだそうだ。

そのドイツで開催されたphotokinaでは、欧米だけでなく中近東やアジアなど、幅広い国から参加者が集うイベントであり、ワールドワイドでのカシオのブランド力訴求にとっても大きなチャンスだったようだ。

欧州でもF1への評価は高く、「売れ行き、評判ともに上々」(Laakmann氏)であり、プロカメラマンからも高評価を得たという。F1は、ボディサイズも一眼レフ並みに大きく、価格も日本円で10万円を超えるため、コンシューマー向けというよりもプロ向けという位置づけだった。

それに対してFH20では、ボディサイズを小型化、高倍率化するとともに、日本では実売価格が8万円前後になった。Laakmann氏によればファミリー層をターゲットにしたということで、より対象が広がっている。

実際、欧州の量販店などではF1は店頭に並べられず、限られたカメラ専門店のような場所でしか購入できなかったが、FH20では量販店などからも取り扱いのリクエストが増えてきているそうだ。

カシオは、photokinaのブースでハイスピードに関してゴルフシミュレーターを使ったデモを実施。これは、ハイスピードでどのような映像が撮れるのかを実感してもらうための施策であり、実際に使えばその楽しさが一目で分かる、というのがカシオの狙い。実際に使ってもらえるphotokinaは大きなチャンスととらえていたようだ。

その結果としてphotokinaの会場ではゴルフシミュレーターでスイングを撮影し、それを見る人たちの顔は興味津々だったし、カシオ側でもその手応えは感じているようだ。

ゴルフシミュレーターで飛距離を競う

写真ではわかりづらいが、実際に撮影されたハイスピードムービー。ゆっくりした動きでフォームがチェックできる

それでも金田氏は、現状のデジタルカメラで機能は十分という人に対して、「高速連写の魅力でまだ伝え切れていない部分がある」と話し、さらに販売を強化していく考え。例えば、動きの予測しにくい、子供やペットなどの撮影で一瞬のシャッターチャンスをものにするのはとても難しい。だが、シャッターを押した時から遡って記録するパスト連写なら、その瞬間を逃さず撮影できる。つまり、ユーザーの知識やテクニックを問わず、日常的、一般的な撮影シーンでもハイスピードが威力を発揮するのだ。プロやハイアマチュアには浸透しつつあるハイスピードだが、今後は一般ユーザーに対する遡及も重要な課題というわけだ。

「ハイスピード」は、カシオがデジタル一眼レフカメラ事業を持っていない中で、コンパクトデジタルカメラの差別化として編み出した新しい機能だ。CMOSを搭載することで実現したこの機能だが、金田氏は「すべてのデジタルカメラがCMOSになり、ハイスピードに置き換わるチャンスがあるのではないか。もちろん、第3弾もありますよ」と話し、今後のデジタルカメラの1つの方向性としてハイスピードの可能性に意欲を示した。