sin(サイン)の守尾崇(右)と宮原仙枝(左)。様々なWebサイトのサウンドを手がけている

Webデザイナーのための学園祭「.Fes 2008 TOKYO」にて、sin(サイン)の守尾崇氏と宮原仙枝による「サウンドがWebの世界を深化させる」と題したトークライブが行なわれた。

sinは、テレビCMやWebサイトのサウンドコーディネートを行う制作集団。「日本郵政スペシャルサイト」、「Adobe スゴロク」などのサイトの音楽制作を担当している。今回のトークライブでは、守尾氏と宮原氏が「Webの世界をより一層深くするためのサウンドのつくり方」などについて語った。

Webサイトの効果音では、緻密な配慮が随所に加えられている。Webサイト上の音の広がりに関して守尾氏は、「Web上では場所の広がりを微妙な音の余韻で創り、感じさせることが大切です」と語った。宮原氏は「サウンドひとつでWebサイトを見る視点の大きさが変わってくる。BGMの楽曲の音とSEのコードの音の関係など、聴こえたときの空気感を大事にしたいですね」と付け加えた。

また、2人は、音とWebサイトの関係についても触れた。ユーザーはWebサイトのサウンドをCDなどの音楽のように能動的に聴こうとはしない。したがって、Web空間に溶け込みつつ、自然に流れて耳に入るような音を作らなければならない。さらに、サウンド再生時にダウンロードする関係上、データ量にも制約がある。守尾氏は「音声データの容量を小さくするコツは、短いフレーズを繰り返すということです。例えば1小節を繰り返すだけだと単調になるが、そこに和音を乗せたりすることで、曲に広がりを持たせることができるんです。逆に、8小節を繰り返すと、急に音楽っぽくなる。音楽的には、長いほうがドラマがあるのですが、データ量との関係で短くしなければならない。すべてはデータ量との戦いで、このあたりはWeb音楽の制作者の悩む部分です」と語った。

また守尾氏は「基本的にスピーカーが小さいと、音は悪くなる。これは、音の成分の低音部と高音部がごっそりなくなることによって生じる音の変化です。せっかく作った音楽も、周波数領域の高いところや低いところに偏って音を入れると、ユーザーの音響環境によっては、まったくわからない音になってします。だからデータ量に配慮しながら、かつユーザーの音響環境に気を配りながら作らなければならないのです」とWeb音楽制作における、周波数領域の大切さも語った。

また守尾氏は、Web音楽における、生音の大切さについて「バイオリンなどの生楽器の音を入れて、独特のゆらぎ感を生むことも大切です。最近は全部の音データを読み込まず、ストリーミングで長い生音も配信できるようになりました。シンセサイザーなどで作る音とはまた違う、リッチな音もWebの音楽に採り入れてもいい」と語った。

実際のサウンドを何パターンも聴かせながら説明する守尾氏

最後に宮原氏が「フラッシュの次のバージョンが出てくると、さらにWebサイトの音楽というものの可能性が広がってくると思います」とコメントし、レクチャーを終えた。ただ、良い曲を作るだけでなく、データ量やユーザーの環境、配信方法などを配慮しながら楽曲を完成させるセンス。それがWeb音楽の制作者には必要ということが実感できたイベントだった。

守尾崇

ヤマハ株式会社でシンセサイザーの開発や音色制作などに関わる。その後、trfの全国ツアーにキーボードで参加。1996年にはD groundのメンバーとしてSony Recordsよりデビュー。2002年にはDJ伊藤陽一郎氏(AKAKAGE)と「aaron.」結成。2003年、sin.inc.を設立し代表取締役となる。現在はWebやCM等の楽曲制作の他にBoAツアーのバンドマスター等、アーティスト活動も行っている

宮原仙枝

sin創立メンバー、Webサイトでは「Adobe スゴロク」や「AXE Wake up serves」なども手がける。CM、イベントなどの音楽プロデュースも行なう