SaaSベンダーの大手、米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEOが来日、都内で開催されたユーザー/開発者向けのカンファレンス「Tour de Force Tokyo」で基調講演し、同社の提唱する新たなソフト、サービスのあり方「Platform-as-a Service(PaaS)」について語った。

米セールスフォース・ドットコムのマーク・ベニオフ会長兼CEO

従来同社は、インターネットを通じて、コンピュータソフトをサービスとして供給する「Software-as-a-Service(SaaS)」の発想を旗印にしていたが、PaaSではアプリケーションに留まらず、さまざまなソフトを活用する基盤、開発環境までをネットワークで提供する手法で、ソフトがネットワークによりサービス化する世界をいっそう拡充することが目的だ。

「SaaSでは、システムの利用状況に応じて料金を支払う従量課金制を採っている。これまでのモデルでは、アプリケーション開発が失敗すれば、リスクが発生するが、従量課金のSaaSでは、そのようなリスクが軽減される」「かつて、最も良質なシステムは、大規模な企業しか利用することができなかった。しかし、SaaS型モデルの採用している(複数ユーザーで、システムを共有する)マルチテナントでは、中小規模の企業も最良、最新のシステムを活用することが可能になる。民主的で公平なモデルだ。拡張性、処理性能も高く、ユーザーはアップグレードや運用、保守など、何も心配はいらない」。ベニオフ氏はこのように語り、SaaSの優位性を強調する。

同社が昨年、打ち出したPaaSは、アプリケーションの開発プラットフォームを基本的にネットワークだけで実現しようとする考えで、SaaSを補完し、さらに利便性の高い環境を構築することを目指している。PaaSの思想を具現化するものが「Force.com」だ。ここには、データベース、ユーザーインタフェース、既存環境との統合機能などが用意されており、アプリケーションを迅速、容易に開発できるという。

「Force.com」は、データベース、UIの定義、外部システムと連携するインテグレーション、固有のビジネスプロセスを定義するロジックなどの開発に必要な環境をサービスとして提供。作成したアプリは、アプリケーションエクスチェンジで公開できる

将来は、公開したISVの作成したアプリケーションの請求代行も行うようだ

ベニオフ氏は「Web1.0の時代には、Webブラウザが開発され、インターネットへ誰もがアクセスできるようになった。次にWeb2.0の段階では、エンドユーザー自らがコンテンツを生成することになり、YouTube、SNSのfacebook、My spaceなどが新世代アプリケーションとして台頭した。その先にあるWeb3.0では、インターネットの新しい領域に入り、プラットフォームの時代になり、PaaSが中心となって、新たな変革を起こす」と話す。

プラットフォームも、かつてはIBM、DECに代表されるようなメインフレームがその座についていたが、やがてオープン化の時代を迎え、マイクロソフトなどを中心に、クライアント/サーバ型モデルが主流となったが、今後は単にアプリケーションソフトだけでなく、ほとんどあらゆるコンピュータ資源をインターネット上から利用する、クラウドコンピューティングが次世代のプラットフォームを担うことになるとの道筋を、ベニオフ氏は示した。

ベニオフ氏は、自社を設立した頃を振り返り「1999年に、我々がアプリケーションを構築した際には、ルータやハブをそろえ、OSを設定し、データベースやサーバーソフトを用意した。小規模なアプリケーションを構築するだけで、大変な労力が必要だった。ソフトの開発はたいへんだったし、リスクもともなう。失敗する例も多い」と指摘、「Force.com」は、開発に必要となる要素は、すべてネット上に設けられており「開発者はアプリケーション構築に専念できる」と、PaaSは、開発者の負担を大きく軽減、開発の工程を効率化できると主張する。

熱弁をふるうベニオフ氏

また、同社は米グーグルが提携、「Gmail(電子メール)」「Google Docs(オフィススイート)」「Google Talk(インスタントメッセンジャー)」「Google Calendar(スケジューラー)」などの「Google Apps」を、Salesforceアプリケーション上から、連携させて利用できる「Salesforce for Google Apps」を投入している。これらのアプリケーションは、従来、同社が持っていなかったものだ。「Googleルとの提携で、広範なアプリケーションを利用できるようになった、これもSaaSモデルの強み」(ベニオフ氏)だ。

「Force.com」活用の事例として、SaaS型ソフト開発、コンサルティングなどを展開するテラスカイが開発したSaaS型の画像管理アプリケーション「SkyGallery(仮称)」が紹介された。「SkyGallery」は、携帯電話で撮影した写真や、パソコン上のデータをメールで送信することで、Salesforceのプラットフォームへ自動取り込みができ、それらを任意のデータに紐づけることができ、不動産の物件情報に、図面や物件写真を添付したり、旅行プランに、現地の最新写真を添付するなどの用途に利用できる。

「Force.com」活用の事例。テラスカイが開発したSaaS型の画像管理アプリケーション「SkyGallery(仮称)」

ベニオフ氏はSaaS型の提唱により、コンピュータソフトの使われ方に大きな一石を投じたが、今度はPaaSの考え方により、さらに一歩進んで、ソフト開発の体制までをもサービス化し、クラウドコンピューティングと呼び、それがWeb3.0の象徴であるとしている。これらのような次世代インターネットは、いま、さまざまな試みが各所で進行している最中で、未だ流動的な状況ともいえる。ただ、ベニオフ氏が「クラウドは、アプリケーションを開発することもできる。オラクルやSQLサーバーか、あるいはクラウドか、開発者や企業の経営幹部はどちらを選ぶのか」と述べるように、同社やグーグルの連合と、マイクロソフト、オラクルなどの既存の大勢力との対立の構図は徐々に明確化してきた。