米IBMは4月23日(現地時間)、従来までの設計手法を見直して実装密度と消費電力の大幅向上を目指したラックマウントサーバ「iDataPlex」を発表した。通常のラックマウントサーバとは異なる専用シャーシと専用コンポーネントを用いることで、従来製品と同じラックサイズながら、搭載可能なシステムボードの数が2倍以上になっている。同時に冷却機構も大幅に見直し、システム全体の使用電力を40%減少させるなど、電力効率がアップしている。またオプションの水冷ボードを背面に設置することで、室内冷房なしの室温運用が可能となっている。同システムは現在米カリフォルニア州サンフランシスコで開催中のWeb 2.0 ExpoのIBMブースでデモストレーションが行われている。

従来までのラックマウントサーバは共通規格での汎用性を高めるために、縦横のサイズは一緒で「1U」「2U」「4U」のように高さのみが異なるシステムユニットを用意し、冷却はサーバを設置した部屋全体を空調で冷やすことで賄っていた。だがIBMではこうした仕組みを「冷却コストも高く無駄が多い」と述べており、実装密度を高めることが難しいと指摘する。iDataPlexでは通常のサーバラックでは側面にあたる部分を正面/背面とし、奥行きの短いボードを左右1対で並べて配置することで全体のサイズはそのままに2倍以上の実装密度実現することに成功した。またもう1つの工夫は冷却機構で、通常であれば背面はケーブル類や電源ユニットがところ狭しと並んでいるケースが多いが、iDataPlexではやや大きめのファンを各システムユニットに配置して排熱専用とするなど、無駄の少ない非常にシンプルな構造になっている。このため、背面を冷却するだけで排熱問題が解決でき、冷却効率が高い。

中身を見ていくと、基本的にはクァッドコアXeonを2基を搭載した(1Uラックサーバとほぼ同等の)x86サーバであることがわかる。ケーブル接続用のコネクタは前面部に配置され、メンテナンス性が高い。システムユニット部最大の特徴は、同ユニットが上下1対に配置された専用シャーシで、2つのシステムユニットが1つの電源ユニットとファンを共有していることだ。ファンは通常の1Uサーバに搭載されているものよりも巨大で、排熱効果が高い。このファンで2つのシステムユニットを同時に排熱することで、より高い冷却効果を生み出すのがiDataPlexの特徴となる。システムユニットには複数のコンフィグレーションが用意され、その中には前面に4つのドライブユニットを搭載可能なストレージ機能重視のモデルも存在する。

そしてiDataPlex最大の特徴ともいえるのが水冷システムだ。IBMではデータセンターに水冷システムを導入することを表明していたが、iDataPlexはその先駆けともいえる製品となる。システム内部に水冷用パイプを這わせるのではなく、あくまでファンを通してシステム外に排出された熱を専用の水冷パネルで冷やし、常温でのシステム運用を可能にするものだ。水冷パネルはオプションとして提供され、ラックの背面に取り付けられる。前述のようにiDataPlexはすべての熱が背面へと放出される仕組みになっているため、水冷パネルの取り付けだけで一度に冷却することが可能になり非常に効率的だ。専用のシステムラックに専用のシステムユニットを組み合わせることで成し得た仕組みだが、水冷パネルを組み合わせるというアイデアはユニークだ。水冷パネルの利用にあたっては水源の用意とポンプの設置が必要となる。ポンプ1つで複数の冷却パネルの循環が可能だ。

このようにiDataPlexでは通常のラックサーバとは異なり、すべてのユニットが独自規格となる。製品そのものも、IBMにオーダーを出すことで依頼に応じたコンフィグレーションでシステムを組み上げて配送が行われる、オーダーメイドの仕組みを採り入れている。Linuxをはじめとするソフトウェアもあらかじめ組み込まれた状態で出荷されるため、ユーザーの手元に配送されてきた段階ですぐに運用が可能になっている点が特徴となっている。

IBMではiDataPlexを「Web 2.0時代のサーバ」と銘打っているが、その意図は「Web 2.0時代に要求される複雑なシステム処理や倍増するトラフィックに対応するための高い処理能力や処理密度を持ったサーバ」という点にあるようだ。エンタープライズ用途のほか、SNSのようなWeb 2.0系アプリケーション、ビデオストリーミング、ゲーム配信用システムなど、比較的システム負荷の高いアプリケーション用途を想定している。また冷却効果や低消費電力という点をピックアップし、近年地球温暖化やエネルギー消費の抑制といったテーマでiDataPlexをアピールする狙いもあるとみられる。折しも発表前日の4月22日は地球環境を考える「Earth Day」であり、タイミング的にもぴったりだろう。

本体ラックを正面から開けたところ。左右1対でシステムユニットが挿入されており、通常の2倍の密度を持っていることがわかる

中央正面部の拡大図。Ethernet、USB、シリアルポート等のコネクタはすべて前面に配置され、背面部は排気専用となっている。またシステムユニットに挟まれた中央部にスイッチングハブが配置される

システムユニットを抜き出したところ。上下1対でペアになっており、1つのシャーシに収まっている。各システムユニットは1Uと同じ高さになっているため、このシャーシ1つで2Uぶんの高さとなる。システムユニットの背面には巨大なファンユニットが挿入され、これ1つで2つのシステムユニットを同時に冷却(排熱)することができる。システムユニットはコンフィグレーションが複数用意され、前面に4つのドライブが挿入可能なタイプもある

システムユニット内部を開けたところ。クァッドコアXeonを2基搭載するほか、8つのメモリスロット、PCIスロットなどを備える

サーバラックの背面図で、オプションの水冷ユニットを開閉したところ。システムユニットの背面はすべて排熱用のファンとなっているため、余分な配線はいっさい存在せず、網状になった格子の中からは熱い空気が流れてくるだけだ。従来のデータセンターであればサーバルーム全体を冷房で冷やすことでこの排熱を処理していたが、iDataPlexではオプションの水冷ユニットを取り付けることで室温での運用が可能