塩原かおり先生
国立音楽大学卒。
東京都日野市で「しおばら音楽教室」
(ピアノ・各種キーボード・ソルフェージュ)
を主宰

4月の入園、入学にあわせて、ピアノのレッスンを始めようと考えている保護者は多い。ピアノを始めるにあたって必要なのが自宅で練習するためのピアノ。最近はコンパクトで高機能な、手軽に始められる電子ピアノに人気が集まっているという。そこで都内でピアノ教室を開かれている塩原先生に、電子ピアノの選び方、電子ピアノの活用法について聞いた。

グランドピアノに近い鍵盤タッチと音の種類を選ぼう

電子ピアノを選ぶ上でもっとも重要なのは、本物のピアノに近い感触があって、指になじむものを選ぶことだという。とりわけ入門されたばかりの小さいお子さんの場合は、なるべく本物に近いものでなければならないと注意を呼びかけている。

というのも、昔の電子ピアノは鍵盤のタッチが軽く、本物のピアノとはかなり違った感触を持っていた。電子ピアノの鍵盤は本物のピアノのように鍵盤の奥に取り付けられたハンマーで弦を叩くわけではなく、スイッチであるため、押せば一律に同じ音が出てしまう。誰でも軽く音が出せるので、自宅では上手に弾けているのに、教室でアコースティックピアノを弾くとタッチが重く感じ、思うような音が出せないということがあった。

「特に小さなお子さんの場合、柔らかいタッチでも音が出てしまうので、なかなか指が独立して動くように上達しないなどの問題がありました。」

しかし最近はどのメーカーの電子ピアノもグランドピアノに近い感触を追求し、指で弾いた通りの音が出るように改良されている。とはいえ強弱の段階が機種やメーカーにより違っているので、塩原先生は、はじめにちゃんとしたピアノの感触を覚えてもらうためにも、購入する際は必ず弾き比べてみて、一番自然で指になじむものを選ぶようアドバイスしている。

普及型の電子ピアノでは、サンプリング(デジタル録音)された一つの音を電気的にコントロールして小さな音と大きな音を鳴らしているため、強弱の表情変化が乏しいが、カシオの電子ピアノPriviaは強弱こそ演奏上重要と考え、もっとも価格の安い普及型モデルから、通常20万円以上の高額な機種でないと搭載しない、弱、中、強の3段階の音を別々にサンプリングして収録しているという。これによりグランドピアノに極めて近い、表情豊かな演奏をすることができる。

弾いたときのタッチの違いは当然音に反映されなければいけない。そうすることで自分の思い通りの音、指で弾いた通りの音が出るようになり、全体としてピアノらしい響きが実現される。つまり電子ピアノを選ぶ際は、弾き比べてみて響きのいいものを選択すると間違いがない。購入にあたっては、価格も重要なポイントだが、安いから音が悪いと決めつけるのではなく、最終的に音が気に入れば価格は関係ないという。

タッチの違いによる音の響きなどを、ピアノを実際に弾きながらご説明いただいた

「グランドピアノはダンパーペダルを踏むと音が共鳴しますが、Priviaはそれに非常に近い響きです。従来の電子ピアノは、一つの鍵盤を弾くとその音だけが鳴るので電気的な印象の音でしたが、Priviaは自然で広がりのある響きです。」

確かに先生がダンパーペダルを踏みながら簡単なフレーズを弾くと、音がポツポツ出てくるのではなく、なめらかに全体に共鳴しているのが分かる。

電子ピアノならではの特徴、機能をチェック

電子ピアノの特徴はなんといってもコンパクトで場所をとらないこと、そしてヘッドフォンをして練習できるので近所に気兼ねせずにいつでも好きなだけできることだ。

最近の機種はコンパクトなものが多く、88鍵でも場所をとらなくなっていて、Priviaでは奥行きはわずか30センチのものもある。もちろん、ピッタリ壁につけて置いても大丈夫だという。電子ピアノがコンパクトになったことで、いまでは76鍵のタイプはほとんど見かけなくなったそうだ。

今回の取材で演奏していただいたカシオ プリヴィアPX-720。グランドピアノの自然な響きと弾き心地を追求し、88鍵盤・3ペダル搭載ながら奥行きは298mmとコンパクトな製品だ

また防音のマンションでも多少は音が室外に漏れるので、それならヘッドフォンをして電子ピアノを弾きたいと、音楽大学の学生がピアノの他にもう一台電子ピアノを購入するケースもあるという。

「いまの電子ピアノは技術的に進化しているので、そうした技術レベルの高い人たちも活用しています。たとえばPX-720にはペダルが3本ついています。ほかのメーカーでは真ん中は弱音器だったりしますが、これは弾いていた音だけが伸びるソステヌートペダルとなっています。このペダルはある程度のグランドピアノでないとついていないものですが、ドビュッシーなど近代や現代の曲を弾くときに使います。」

そのほか、デジタルピアノには「Modern」と「Classic」など異なるピアノの音色や、エレクトリックピアノやベース、ストリングスなどさまざまな音が選べる。これでポップスやジャズなど、大人も演奏を楽しめる。最近は子供だけではなく、大人になって始める人も増えているという。

「カラオケの先生で、メロディをピアノで弾けるようになりたい。できたら伴奏もつけられるようになりたいと始められた方もいらっしゃいます。」

ピアノはさまざまな楽器の基本になる。そのため、ピアノだけではなく、そこからアンサンブルの楽しみなどを覚えて、先に進むこともできるのが電子ピアノの良さだという。先生は最後にピアノを楽しむコツを次のように語られた。

「電子ピアノはコンパクトなので、リビングに置いてお子さんとコミュニケーションを取りながら練習できます。それが共通の話題になって家族のつながりがうまれるのではないでしょうか。自分の気持ちを素直に音に出すこと、弾くことによって、気持ちが潤います。いきなり専門家にさせようというのではなく、ゆっくりとした気持ちでピアノを楽しむのが大事なのではないでしょうか。」