米Yahoo!が開発コード名「Panama」で知られる広告配信システムへの移行を開始したのは2月5日、米国に次いで2番目となる日本では4月17日にネット広告大手のオーバーチュアが「新スポンサードサーチ」(同Panama)への移行を開始した。

およそ1カ月が経過した現在、オーバーチュアによると、5月14日までに3,500社が新スポンサードサーチへの移行を完了したという。同社マーケティング シニア ディレクターの山中理恵氏は、現在までの状況を「順調に推移している」と見ている。今後は「時差や日本語のキャラクターセットの問題などもあり、慎重に進めてきたが、今週中に1万社を移行させ、次週以降も加速させる」と強気の姿勢を見せる。その理由は新スポンサードサーチそのものへの自信にあるようだ。

新スポンサードサーチの実力

新スポンサードサーチの説明にあたって、山中氏は以下の3つの特徴を挙げる。

  • 充実した広告配信機能
  • 広告の最適化支援
  • 投資対効果向上

広告配信機能

従来のスポンサードサーチでは、日本で登録された場合、日本全域しか配信できなかったが、新スポンサードサーチにより地域ターゲティングが可能になった。地域ターゲティング機能では「日本全国」、関東・甲信越などの「地域別」「都道府県別」から複数を選択することが可能となり、地域に根ざした消費者へのリーチ、地域を絞ることでのキーワード単価削減といったメリットが生まれる。

山中氏は地域ターゲティングのメリットを享受できる業種として、「旅行、ホテル、不動産、中古車、転職などが考えられる。また、小売業でテストマーケティングを実施する場合など、地域を絞ってマーケティングを行いたい場合に有用だ」と語る。

また、広告掲載の予算・スケジュールの細かな設定が可能になることで、プラニングに合わせたかたちで広告を配信することが可能となった。

こうした機能により、例えば父の日までの1週間、福島県の消費者に向けて予算に沿ったかたちで特定商材のPRに注力することが可能になる。これから広告配信を始めたいと考えている顧客であっても、「審査や掲載のスピードが上がり、より迅速な配信が可能になった」(山中氏)という。

広告の最適化支援

広告の最適化支援としては、ABテスティングなどと呼称される広告のテスト機能が用意される。これは2つのコピーライトがある場合、どちらがより効果的かを判定する機能で、広告の品質がどの程度高いかを視覚的に提供する機能だ。

管理画面などで表示されるユーザーインタフェース(UI)にはAjaxを用いており、「移行後の顧客からは『UIが非常によくなった』『直感的な操作が良いですね』『レスポンスが非常に良いですね』とのフィードバックを得ている」(山中氏)という。

投資対効果向上

投資対効果の支援策は、山中氏が「新スポンサードサーチの本当の特徴」と自信を見せる2つの機能、「解析機能」と「目標管理機能」が提供される。

山中氏からは一例として、ユーザーが「iPod」で検索した結果、スポンサーサイトとして表示されたECサイトをクリック、アクセスしたが購買にまで結びつかなかった場合が挙げられた。このユーザーが「iPod」に加えて「送料無料」で検索、さらに同じECサイトにアクセスし、購買にまで結びついたとする。

こうした場合、目に見えるかたちで貢献しているのは「iPod 送料無料」という2つのキーワードだが、今回の場合ではそれ以前のユーザーの動向こそが重要といえる。新スポンサードサーチでは「アシスト」と呼ばれる機能で、こうした間接的にコンバージョン獲得につながったクリック数を重要なデータとして解析する。

また、広告主のビジネスによって、入札順位や掲載順位に対する優先順位は千差万別だ。個人商店では安価なクリック単価で自社サイトへの誘導を図ることが優先順位のトップになるかも知れないが、結婚相談所では1クリックあたりの単価が高くなろうとも、大きな1件の成約を目指すとこともあるだろう。

新スポンサードサーチでは、こうしたそれぞれのニーズを解析機能によって分析し、それを目標管理機能に入力するだけで、システムが自動で適切なROI管理を実行するという。

サーチエンジンは独立せず、基幹アプリと高度な連携へ

こうした一連の機能を説明した後で、山中氏は今後の展望を「SEMの役割が拡大する」とまとめる。

例えば、ピンクのTシャツの在庫が余っているのなら、これを売るためにキーワード単価を高くしてでも売ってしまいたいというニーズがある。また、紫色のTシャツが人気で在庫がないのであれば、それをPRする広告が表示されても意味をなさず、いったん落としてしまいたいというニーズもある。

山中氏は、こうした在庫管理などのアプリケーションと連携した広告配信の可能性を指摘する。「サーチだけが独立してあるのではなく、基幹アプリケーションと連携を取っていくようになるだろう」(同)

このような状況が訪れるならば、山中氏は「従来、定量的評価が難しかったマーケティングの分野で、徐々にそれが可能になるのではないか」と期待を寄せる。

先に述べた通り、オーバーチュアは4月から既存ユーザーの移行を開始しているが、本日15日から新スポンサードサーチで新規アカウント開設の受付を開始している。「地域ターゲティングの設定画面」「キーワードの登録」「「広告予算と入札価格の設定」「広告作成」「入力内容の確認」という5つのステップで登録することが可能で、同社では「簡単かつ効果的に、よりマーケティング志向に」とのメッセージで訴求を図っている。

4月24日にはヤフーがオーバーチュアの子会社化に向けて、米Yahoo!と協議することを発表しているが、ヤフー 広告本部長 武藤芳彦氏は「ヤフーが広告事業の主力としているディスプレイ広告と、オーバーチュアが主力としている検索連動型広告は、これまであまり連動していなかったが、今後は連携した広告を提供していきたい」との考えを示した。