生物学者の門を叩く

プロジェクト参加から3ヶ月。手探りでの研究が続いていた佐藤氏は、その取り組み法を改善する必要があると考えていた。

「私が化学屋で、所属が電子工学科。生物学に関する知識・経験が私にも周りにも欠けていました」(佐藤氏)

元々、米国では昆虫の飼育が趣味としてあまりポピュラーではない。そのため、「研究は、飼育方法から始めました」(佐藤氏)という。それに対し、日本では昆虫飼育が非常に盛んだ。佐藤氏も幼いころは、友達や父親とともに頻繁に虫取りをして遊んでおり、研究当初はその当時の知識が役立っていた。

そこで、佐藤氏は、一時的に日本に帰国する折、九州大学(当時。現、長崎大学)の岡田二郎准教授をはじめ、多くの大学・研究機関の指導者を訪問する。さまざまな意見を聞きながら、飼育法や麻酔法、解剖法など、基礎からアドバイスをもらい受け、研究の方向性を見直した。

「どの研究室でも話を真剣に聞いて頂き、多くのことを教えて頂きました。特に岡田先生は、私の初歩的な質問にも丁寧に細かく回答頂きました。当初、神経節一つを見つけるのも困難な私が、辛抱強く研究を続けてこられたのは、このような温かいご指導のおかげです。また、昆虫飼育を愛好されている方々にも多くのアドバイスをもらいました。昆虫飼育は日本の誇れる"技術"ですよ」(佐藤氏)

甲虫の胸部神経系

神経束に電極を挿入したときの様子

電極にはさまざまなものが用いられるが、上で使用しているのは長さ4mm、幅0.3mm程度のもの

米国に戻った佐藤氏は、筋肉を刺激して翅を動かすという方法から、神経を刺激して翅を動かす方法へと研究方針を修正した。頭部や胸腹部を切開して神経節を確認し、電極の挿入に最適な場所を探った。

さらに時を同じくして、研究室の学生からGreen June Beetleという甲虫の話を聞く。Green June Beetleはカナブンの一種。その学生の実家付近では、夏になると大量発生して飛び回っているという。「研究に適しているのでは」と薦められた佐藤氏はすぐに手配に入った。

「最初は、その学生のご両親がそのカナブンを送ってくれました。自発的に飛ぶので、これはいけると思い、アメリカ各地から取り寄せることにしました」(佐藤氏)

併せて、Green June Beetleに関する論文を探し、著者に連絡を取ったという。

「Green June Beetleは果樹園を荒らす害虫、ということを知りました。University of Arkansas のDonn T. Johnson先生が、その害虫を捕獲・駆除する方法を研究していたので、連絡をとったところ、さまざまな助言を頂きました」

Donn T. Johnson教授から教わったトラップを仕掛けて、自らも野外収集を行う。しかし、そのあたりはやはり素人であり、捕獲は思うように進まなかった。研究前の工程でつまずくことになり、焦りを感じていると、ある日、思わぬ出来事が起きる。

「Donn T. Johnson先生から大量のGreen June Beetleが研究室に届いたんです。先生自ら捕獲して頂いたようで……先生には頭が上がりません」(佐藤氏)

さらに、果樹園に直接連絡したり、他州の友人に依頼したり、ガーデニング愛好者が集うフォーラムの掲示板に書き込みをしたりして、Green June Beetleを譲ってもらうお願いを続けた。

「『害虫が欲しいだなんて変な人だ』と言われたこともありました」(佐藤氏)

こうして十分な研究題材を得た佐藤氏は、本格的に飛行実験を開始する。周囲の協力を得て、研究は徐々に良い方向へと進み始めたという。

>>飛行制御に成功!!