飛ばない昆虫に試行錯誤

こうした評判を裏付けるかのように、当初の研究は全くうまくいかなかった。佐藤氏が加わったのはプロジェクトのキックオフからすでに半年が経ってからのことだったが、その時点で研究の進捗はほとんどなかった。

「対象とする甲虫の種目が一応決まっていましたが、その解剖、刺激方法などは決まっていませんでした。担当していた学生がいたのですが、暗中模索していました」(佐藤氏)

当初、研究素材として採用していたのは、Zophobasというゴミムシダマシ科の昆虫。しかし、「まったく飛びませんでした」(佐藤氏)という。

当初、研究素材として採用されていたZophobas。飛行は苦手

「Zophobasという昆虫は、翅を広げることはあるものの、自発的に飛び立つことはまずありません。試行錯誤を繰り返してきた今だから言えることですが、飛行制御を課題とした研究テーマに適した昆虫ではありませんでした」(佐藤氏)

そんなZophobasがなぜ採用されたのか。それは、「Zophobasが、肢を刺激されると翅を広げ振動させるという性質を持っているから」(佐藤氏)だという。すなわち、自発的に飛行開始をしないものの、刺激の与えようで翅を振動させることが容易なのである。であれば、より適切な刺激方法を見出せば、振動を持続させ、ひいては飛行させることも可能ではないかと考えられていたわけだ。

しかし、もともと飛ばない昆虫なだけあり、研究の成果は一向にあがらなかった。

「電気信号を与えて翅を広げることはあっても、離陸して飛行とまでには至りませんでした。紐に吊るして空中を回遊させた際に、5分間羽ばたきが持続することがありました。しかし、それが最長時間。多分はあれが世界記録ではないかと……」(佐藤氏)

>> 難局打開に向けてとった行動とは?