早稲田大学(早大)は4月12日、トレーニング効果を生み出す「最少(の運動)量」のメカニズムについて、強度の工夫によって、短時間であっても大きな運動効果をもたらし得ることを発見したと発表した。

同成果は、早大 スポーツ科学学術院の川上泰雄教授、国立スポーツ科学センターの山岸卓樹研究員らの共同研究チームによるもの。詳細は、「Medicine & Science in Sports & Exercise」に掲載された。

効率のよいトレーニング方法として、わずか40秒の高強度間欠的運動(20秒の全力運動を、休憩を挟んで2本実施)が、30分以上を要する中程度の強度の有酸素運動と同等もしくはそれ以上に「最大酸素摂取量」(全身持久力の指標である、1分当たりの酸素摂取量の最大値)を向上させることが明らかにされている。

一方、間欠的運動の時間を減らした場合(10秒を2本、あるいは20秒を1本)は同様の効果が得られないことも確認されているが、その理由は未解明。さらに、高強度間欠的運動に関する研究では、エネルギー代謝を主とするものが多く、筋肉への影響については不明だったという。全身持久力や筋力を高めるトレーニングの最少量の解明や、筋肉への影響を明らかにできれば、現代人の運動不足の解消や、健康増進、疾病予防につながることが期待されるとする。

  • 高強度間欠的運動実施前後の大腿部のMRIの横断画像例

    高強度間欠的運動実施前後の大腿部のMRIの横断画像例。各筋の色の変化は、筋活動の度合いが反映されたもの(青-緑-黄-赤の順で筋活動が高くなる)(出所:早大Webサイト)

そこで研究チームは今回、トレーニング効果を生み出す最少量の解明を目指し、異なる高強度間欠的運動中の全身・局所のエネルギー代謝、大腿部の筋活動について多角的に検証することにしたという。

今回の研究で用いられた運動課題は、「10秒の全力スプリントを80秒の休憩時間を挟んで4本」と「20秒の全力スプリントを160秒の休憩を挟んで2本」の2種類。いずれの運動課題も自転車エルゴメータを用いて実施され、総運動時間(40秒)とスプリント時間と休憩時間の比率(1:8)は運動課題間で統一された。その結果、主に以下の3点の結果を得られたとした。

  • 高強度間欠的運動

    (左)高強度間欠的運動。(右)従来の有酸素運動(出所:早大Webサイト)

  1. 10秒以上のスプリントを反復した場合、2本目以降は全身および筋肉の酸素消費量の増加が頭打ちになる。

  2. 筋肉の酸素消費量は、10秒と比較し20秒スプリントで増大する。

  3. いずれの運動課題も大腿部8筋の活動を有意に増大させる。

さらに、これらの結果から以下の3点がわかった。

  1. 10秒以上の全力スプリントを反復する場合、全身・筋肉の有酸素性エネルギー代謝を高めるためには2本で十分である。
  2. 総運動時間(40秒)を運動課題間で統一した場合、(スプリントの本数を減らして)スプリント1本あたりの時間を長くすることで、筋肉の酸素消費量を最大限に高められる。
  3. わずか40秒の高強度間欠的運動で、大腿部の主要な筋群の活動が高まる。

なお今回の研究では、全身の酸素消費量は「呼気ガス分析法」で、大腿部の筋肉の酸素消費量は「近赤外線分光法」で、大腿部の筋活動は「MRIT2マッピング法」で分析された。

  • スプリントの反復に伴う全身および筋の酸素消費量の変化

    スプリントの反復に伴う全身(左)および筋(右)の酸素消費量の変化。スプリント2本目以降は全身、筋肉の酸素消費量が共に頭打ちになる。また、筋の酸素消費量は20秒スプリントにおいて増大する(右)(出所:早大Webサイト)

世界保健機関(WHO)の身体活動に関する最新ガイドラインでは、1週間あたり150分以上の有酸素運動(たとえば1日30分のウォーキングを5日間)や週2回以上の筋力トレーニングが推奨されている。しかし、多忙な現代人にとって、その推奨事項を満たすことは決して容易ではない。それに対し、20秒の全力スプリント2本を週に1~2回程度のペースなら、定期的に続けていきやすいといえるのではないだろうか。

最大酸素摂取量の改善はアスリートの競技力のみならず、一般成人においても疾病予防につながることがこれまでの研究から証明されている。さらに、大腿部の筋肉量は加齢の影響を最も受けやすいといえるが、今回の研究で用いられた運動様式は、加齢に伴う大腿部の筋肉量の減少を食い止める一助となることも期待されるとした。

  • スプリント実施前後の大腿部のMRIの横断画像例

    スプリント実施前後の大腿部のMRIの横断画像例。今回の研究では、大腿部8筋が対象とされた。各筋の色の変化は、筋活動の度合いが反映されたもの(青-緑-黄-赤の順で筋活動が高くなる)。(A)大腿直筋、(B)外側広筋、(C)内側広筋、(D)中間広筋、(E)大内転筋、(F)大腿二頭筋長頭、(G)半腱様筋、(H)半膜様筋(出所:早大Webサイト)

今回の研究では、高強度間欠的運動に対する一過性の生理学的な応答が検証された。しかし、実際にトレーニングの効果を確かめるためには、今回用いられた運動を少なくとも数週間から数か月間実施し、その前後で効果検証をする必要があるという。

また20秒の全力スプリント2本は、運動時間は極めて短いが、特に高強度の運動に慣れていない人にとっては、今回の研究で用いられた運動様式の実施はハードルが高い可能性があるとする(急な全力疾走は肉離れなどのケガを負うリスクも高まるので注意が必要)。今回の研究では、全力スプリント中の全身、筋肉の酸素消費量の増大は概ね15秒で頭打ちになることも確認されていることから、運動時間を30秒(15秒×2本)とさらに短くすることも可能だといえるとした。

さらに、短時間であっても全力を出すとそれ相応の身体的負担が伴う。そこで今後は、少し発揮パワーを抑えた(強度を落とした)運動でも、適切な効果が得られるかどうかを検証する必要があるとしている。