鉄道事業者のフリー乗車券の中には、沿線施設の割引やちょっとしたプレゼントが付くサービスもある。おもに観光客向けに販売されるからだろう。観光施設にとっては新規来場者の誘致になるし、鉄道事業者にとってはきっぷに付加価値が付くから売上増進につながる。もちろん利用者もお得だ。理想的なタイアップといえる。

複数の割引制度を活用すると、きっぷ代の元が取れる場合もある。たとえば東京メトロや東京都交通局が発行する一日乗車券などを購入すると、きっぷを見せるだけで約400の施設で割引やプレゼントなどの特典が受けられるサービスがある。一例を挙げると、東京湾を周遊するレストラン船「東京湾クルーズ ヴァンテアン」の料金が10%割引だ。ディナークルーズは9,500円だから、割引額は950円。これに対して「都営地下鉄ワンデーパス」は500円、「東京メトロ24時間券」は600円。1回の利用だけで元が取れる。

松山市駅を発車する伊予鉄道の市内電車。後方にいよてつ髙島屋大観覧車「くるりん」が見える

その中でも、伊予鉄道「市内電車1Dayチケット」の特典が興味深い。500円で市内電車(路面電車)全線が1日乗り放題になるフリー乗車券だ。市内電車の運賃は一律160円だから、4回以上乗ればお得になる。そればかりか、松山市駅の駅ビル屋上にあるいよてつ髙島屋大観覧車「くるりん」の通常ゴンドラに1回無料で乗れる。ちなみに「くるりん」の通常ゴンドラの正規料金は700円だ。……あ、あれ!?

「市内電車1Dayチケット」は500円で「くるりん」1回無料。「くるりん」は1回700円。なんと、「くるりん」に乗ろうと思ったら、「くるりん」のチケットを買うよりも「市内電車1Dayチケット」を買ったほうが200円も安くなるのだ。どうしてこんなことになったのか。伊予鉄道の問い合わせ窓口に電話して聞いてみた。

「伊予鉄道では、お得な乗車券は基本的に大観覧車の無料1回利用をサービスしております。たしかに『市内電車1Dayチケット』は最も安く、料金が逆転してしまいますが、これだけ除外するのも変ですから。気づいた方にはお得な情報だと思います」

むしろ「くるりん」チケットに「市内電車1Dayチケット」が付いてこないほうが逆に不思議に思えてくる。

いよてつ髙島屋大観覧車「くるりん」(2014年、筆者撮影)

「坊っちゃん列車」のチケットでも「くるりん」が無料に

伊予鉄道で「くるりん」の通常ゴンドラを無料で利用できるきっぷはたくさんある。列挙すると、「坊っちゃん列車」(800円)や市内電車乗り放題の「市内電車1Dayチケット」(500円)・「市内電車2Dayチケット」(800円)、郊外電車・市内電車・路線バスに乗れる「ALL IYOTETSU 1Day Pass」(1,500円)・「ALL IYOTETSU 2Day Pass」(2,000円)、「坊っちゃん列車」と松山城ロープウェイ、天守閣観覧料などがセットになった「松山城らくトクセット券」(1,700円)、観光地向けバス往復きっぷ「バスレジャークーポン」(770円~)、サッカー観戦席とセットの「愛媛FCサポーターズチケット」(2,300円~)となった。

他にも「くるりん」の通常ゴンドラをお得に利用できる制度がある。誕生月は毎日でも無料。同伴者も3名まで無料になる。運転免許を返納した人も無料。各店舗の割引チケットをセットにした「いよてつショッピングパスポート」の購入者も3回無料。外国人観光客もパスポートを見せると無料で利用できる。

なお、先程から何度も「通常ゴンドラ」という名称が出てくるけれど、「くるりん」には通常ゴンドラに加えて「シースルーゴンドラ」という、床も扉もすべて透明素材のスリリングなゴンドラがある。利用料金は1人1回900円で、こちらは各種無料サービスの対象外だ。全ゴンドラ32台のうち、2台がシースルーゴンドラになっている。

NHK「ドキュメント72時間」でも紹介された「くるりん」は1周15分。輪の直径は45m、土台部分も含めて高さ47m。松山市のシンボルとして、街のどこからでも見える。すべてのゴンドラに空調が整備されているため、暑い夏でも寒い冬でも快適だ。無料で利用できる制度がたくさんあり、まるで伊予鉄道から松山の人々へのプレゼントのようだ。

かく言う筆者も、伊予鉄道を「乗り鉄」したとき、「ALL IYOTETSU 1Day Pass」を利用して「くるりん」に無料で乗せていただいた。「くるりん」から松山城を望む景色は素晴らしい。次の機会があったら、ぜひ夜景も楽しんでみたい。もちろんそのときも、伊予鉄道のお得な乗車券の特典を使わせていただこう。

(※文中の運賃・料金はすべて大人1名あたりの金額)