JR北海道は3月4日のダイヤ改正で車内販売サービスを大幅に削減する。函館~札幌間と札幌~釧路間の特急が対象だ。

函館~札幌間の列車のうち、上りは「スーパー北斗18号」「スーパー北斗20号」「北斗22号」が対象だ。札幌駅から函館駅まで所要時間は約3時間半。夕食時にかかる時間帯で、飲み物と食料の調達ができない。下りは朝の「北斗3号」「スーパー北斗5号」、夕刻の「スーパー北斗21号」が対象だ。それぞれ朝食、昼食、夕食にかかる時間帯である。

特急「スーパーおおぞら」は3月4日から全列車で車内販売取りやめに

札幌~釧路間の特急「スーパーおおぞら」はすべての列車で車内販売を取りやめる。札幌~帯広間の特急「スーパーとかち」は2014年末で車内販売を全廃しているから、道東方面の車内販売は全滅だ。「スーパーおおぞら」は約4時間、「スーパーとかち」は約3時間も飲食物を調達できない。

本州から札幌方面に向かう場合、北海道新幹線から乗り継ぐ時間は短い。駅で購入できないとなると、新幹線の車内か乗車駅で調達する必要がある。食事の何時間も前だ。夏場は衛生面で不安になる。温かいコーヒー、冷たいジュースも、とりあえず買っておくけれど、飲みたいときには冷めてしまう。なにより、北海道に上陸したところで、なぜ北海道の味に出会えないのだろう。これは悲しい。いっそ飛行機に乗ろうか。LCCなら食事を買える。空腹を我慢できる所要時間だ。あるいは函館駅で下車して上等なものを食べて、運賃の安いバスにしようか。

車内販売廃止の理由について、JR北海道の報道資料では「車内販売のご利用状況」「人材確保」を挙げている。北海道新聞は2月3日付けの記事で、今回のサービス終了で数千万円の経費節減を見込んでいるとのことだ。JR北海道は、もう説明も面倒なほどおカネがない。赤字を減らすために成すべきことは、売上げの増加と経費節減だ。だから赤字のサービスを止めるという考え方は、経理上は正しい。

車内販売についてはJR北海道だけが「やる気がない」わけではない。JR東日本は2年前、2015年のダイヤ改正を契機に新幹線と在来線特急列車の多くで車内販売を終了した。JR東海とJR西日本も在来線特急列車の車内販売を終了、新幹線「こだま」も車内販売を止めた。JR九州も在来線特急列車の車内販売は全廃となり、新幹線と観光列車は継続中。JR四国は一時期全廃したけれど、現在は一部の列車の短い区間で再開するにとどまる。

JR四国は特急「しおかぜ」「南風」の一部区間で車内販売を実施している

JR北海道以外の例を見ても、廃止の理由は赤字であり、赤字の理由は利用者の減少だ。列車の利用者そのものが流動的で、混雑時期以外は車内販売を成立させるほどではない場合もあるだろう。駅売店、駅ナカの充実で、事前に買い物を済ませる乗客が多いという理由も報じられた。ひとりひとりに「その弁当はどこで買いましたか」などとは聞けず、統計的な分析は難しい。車内販売員の感想、観察が根拠だろうか。

しかし「売れない、それは駅で買えるから」と断じていいのかな、と筆者は思う。乗客が多い列車で車内販売が成功しない。その理由をしっかり把握できているだろうか。

筆者の経験を振り返ると、若い頃は車内販売を利用しなかった。どちらかといえば嫌いだった。ジュースやサンドイッチなどは、駅や近隣店で売られている商品より割高だからだ。買いたくても買わない。買わないけれど、自分のそばを通る。販売員と目が合ったりする。気まずい。車内販売なんて要らない。

しかしいま、筆者は車内販売をよく利用する。筆頭はコーヒーだ。缶コーヒーより高いけれど、香りの良い、温かいコーヒーは車内販売にしかない。弁当も買う。種類が少なくて残念だけど、ワゴン販売の限界だから仕方ない。しかし、乗継ぎ時間によっては駅で買えないから、弁当は本当に助かる。弁当がなければ菓子を買う。

次は土産品。観光列車などで限定品と言われると、つい財布を開けてしまう。ちょっとした小物を意味もなく買ったりする。退屈しのぎかもしれない。観光列車はそうした乗客の心理を見越しているから車内販売がある。いまは車内販売を待っていることもある。若い頃に比べて金持ちになったからではなく、年齢を重ねて「車内で買う価値」を理解できるからだ。

諸経費がかかるから市中と同じ値段では売れないというなら、同じものを売らなければいい。同じものなら安いほうがいいという人を相手にしてもしかたない。上等なものを高めの設定で売る。特別なお菓子だとか、特別な豆を使ったコーヒーとか。上等である理由をわかりやすく示す。車内で買えて良かった。そんな商品を車内販売は研究しただろうか。市中で買えるものを売ったところで、市中には勝てない。

定期特急列車で車内販売をやめた会社も、観光列車で車内販売を実施している。売れるからだ。なぜ売れるかといえば、観光列車に乗る客が何を求めているかを考えて品ぞろえをしているからだ。では、それ以外の列車の車内販売で、客が何を求めているかを考えていただろうか。「移動するキヨスク」程度の認識ではなかったか。

車内販売の廃止がもったいないと思う理由は、まだある。乗客を目的地まで独占している状態にしているからだ。遊園地やショッピングモールは屋台のような飲食スペースを用意している。土産物屋もある。なぜなら、お客を引き留めて、長く滞在してほしいからだ。商売には「利用客は滞在時間が長いほどお金を使う」という法則もある。

特急列車の場合、滞在時間を引き延ばす努力は要らない。3~4時間もお客を乗せている。財布を持った人がじっと座っている。こんなに大きなビジネスチャンスはない。なぜそこで、もっと真剣に商売をしないのだろう。

車内販売は鉄道会社直営か、国鉄時代から手がけていた関連会社が実施していた。もともと鉄道会社には小売りのノウハウがなかった。いまも得意ではないかもしれない。ならば、商売に長けたビジネスパートナーに門戸を開いたらどうだろう。

JR西日本や大手私鉄では、駅の売店に大手コンビニを導入する事例が増えている。車内販売もコンビニに委託してはどうか。場所代を取るなどとケチなことを言わずに、列車を売り場として開放したらどうだろう。手を挙げる事業者があるかもしれない。旅客サービスが向上すれば、乗客の増加も期待できる。

特急列車は車内販売ができる空間であり、揺れが少なく飲食に向いている。ライバルの高速バスに対抗できる利点のひとつだ。それをやめてしまうとはもったいない。全国的に小売店の商売が厳しい中、列車内はネット通販が配達できない場所のひとつ。温かいコーヒー、焼きたいパン、炊きたてご飯の弁当も、ネット通販は持って来てくれない。列車内でもワゴンは難しいけれど、販売コーナーを作れば温かい食事を提供できる。いや、いまの技術なら、温かい食事を提供するワゴンだってできるかもしれない。飛行機の機内食のように。

車内販売という魅力がないと、列車の旅の魅力が減り、乗客減を招きそうで心配だ。逆に、車内でしか買えない限定品があれば、他の交通機関より特急列車に乗りたい人が増えるかもしれない。本来、車内販売は魅力のある販売チャネルではないか。車内販売廃止のプレスリリースを出す前に、車内販売事業者を公募するというプレスリリースを出してほしかった。いや、いまからでも遅くはない。