【連載】

口は命の入り口です

10 「口を開けるときに顎がカクッとなる」人に知ってほしいこと

  • >
  • >>

10/10

口を3cm以上開けられますか?

先日、「食事をするときに顎(あご)がズレるんです」という30代女性のビジネスパーソンからご相談を受けました。口が指1本分しか開かず、開けようとすると左の耳の前(関節部)に痛みがありました。黙っていると痛みはなく、レントゲン写真でも骨に変形がありませんでした。他の病気がなかったので、「顎関節症」と診断しました。

今回は、顎関節症がどんな病気かを解説します。

顎の音がするのは自然なこと

「顎がひっかかって開けられない」「食事のときに口を開くと、耳の前がカクカクする」「口を大きく開けようとすると痛い、顎が外れそう」など、顎の症状に悩む人はめずらしくありません。前回の歯科疾患実態調査によると、「口を大きく開け閉めしたとき、顎の音がする」人は10~50代のいずれの年齢でも2~3割程度いることがわかりました(※1)

口を開けるときに顎が鳴る、これは「顎関節症」の症状の一つです。なぜ顎から音がしてしまうのかというと、顎の関節は口を開けるときにスライド(滑走運動)しているからです。顎の「カクッ」という音は、口を開けるときに顎がスライドしてクッション(関節円板)を乗り越えた音です。口を開けるときにスライドすると、クッションにぶつかってから乗り越えます。そのときに「カクッ」や「ポキポキ」という音がするのです。

ただし、口を開けるときに顎が「カクッ」や「ポキポキ」と鳴る(クリック音)状態は、顎関節症のそんなに悪い病態ではありません。ひっかかりを乗り越える音だからです。

一方、顎がひっかかって口が開かなくなる、または口を開けるときに顎が「ジャリジャリ」と鳴る(クレピタス音)状態の方が重症です。「ジャリジャリ」と鳴るのは、関節のクッションに穴があいてしまったときに出る音だからです。

「カクッ」や「ポキポキ」という音がする方のうち、重症化してしまい口が開きにくくなるのは10%程度です。注意してほしいのは、「顎関節症」と診断されてもすべての方に治療が必要なわけではないこと。痛みがなくて4㎝以上口を開けることができ、口を開けるときの音が気にならない程度であれば、治療対象にはなりません(※2)

「顎関節症」チェックリスト

顎関節症は次の3つの症状がポイントになります。

1.口を開けようとすると耳の前ぐらいの顎関節が痛む(運動時痛)

2.口を大きく開けることができない(開口障害)

3.口を開けようとすると音がする(関節雑音)

この3つの症状のうち1つ以上に当てはまり、他の病気がない場合に顎関節症と診断します。

顎関節症の原因と治療法

どんな人が重症化しやすいのか、まだ学会では明らかにされていませんが、顎関節に負担のかかる方は要注意です。例えば、むし歯や歯周病が進んで奥歯がなかったり、親知らずが先にぶつかったりして、かみ合わせが不安定な方や強い歯ぎしりのある方です。他にも癖、ストレス、姿勢が影響するともいわれています。

顎関節症(復位を伴わない関節円板の前方転位)と診断された冒頭の30代女性は、病態や薬の副作用の説明を受けた後に、痛み止め(非ステロイド系抗炎症剤)を飲みながら、顎関節に負担をかけないようにしました。徐々に自己開口訓練をして、痛みなく口が4㎝開くようになりました。

症状が似た病気にご注意

顎関節症は、7割程度の方が特に何もしなくても2年ほどで良くなるといわれています。ですので、元に戻せないような歯を削る治療は避けたほうがいいでしょう。

注意してほしいのは、他の病気が原因の場合です。下記の6つの症状のいずれかがある場合は、頭や周りの組織の腫瘍や出血、炎症、頭痛、神経痛など他の病気の可能性も考えられます(※3)

1.口がほとんど開かない(25mm未満の開口障害)

2.耳の前に腫れがある(腫脹)

3.麻痺がある(神経脱落症状)

4.熱が高い(発熱)

5.他の関節にも症状がある

6.黙っていても痛い(安静時痛)

特に、忙しいビジネスパーソンは顎関節症に症状が似た病気に注意しましょう。自己判断で放置せず、かかりつけの歯科医院か口腔外科を標榜している病院でご相談くださいね。


注釈

※1 平成23年歯科疾患実態調査(昭和32年より6年ごとに実施される)

※2 『口腔内科学』(永末書店 / 【編集主幹】山根源之 草間幹夫 久保田英朗 / 【編集委員】片倉朗 北川善政 里村一人)

※3 日本顎関節学会 診療ガイドライン/リーフレット

※画像と本文は関係ありません


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。
  • >
  • >>

10/10

インデックス

連載目次
第10回 「口を開けるときに顎がカクッとなる」人に知ってほしいこと
第9回 子供にむし歯菌をうつしてない? 親が今すぐ始めたいオーラルケア5つ
第8回 「3歳までにむし歯菌に感染しなければ、一生むし歯にならない」は本当か?
第7回 なぜ、1歳未満の乳児にはちみつを食べさせてはいけないのか?
第6回 ペットとのキスは大丈夫? ペットからうつる感染症リスクとは
第5回 なぜ気づかない? 口臭の原因4つと根本的な解決法
第4回 25歳までに親知らずを抜くべき3つの理由
第3回 むし歯の放置は命に関わる!? 疲れたビジネスパーソンは特に危ない理由
第2回 マスクだけじゃインフルエンザは防げない!? 歯科医が勧める予防法とは
第1回 人は「口」が使えないと死に至る!

もっと見る

関連キーワード

人気記事

一覧

イチオシ記事

新着記事