10月30日、羽田にて日米間の昼間便が就航となる。両国に10路線をどう振り分けるのか注目された中で、もうひとつの話題となったのはデルタ航空の動向だろう。デルタが進める戦略の核心を、航空会社創業経験もある航空ビジネスアドバイザーの武藤康史氏が日本支社長の森本大氏に迫った。


パートナーのネットワークにつなげる

森本支社長: デルタは、ノースウエスト航空が持っていた以遠権を合併により引き継いだという経緯があるので、その権利を使わないともったいないと思われがちです。ですが、実際に航空会社が世界で展開する時に、全部自社でネットワークをつくるということが、法的にも難しいんですよね。本来はその国の航空会社、日本であれば日本の航空会社と組んで、その会社のネットワークにつなげるというのが拡張させやすいシステムです。

現在、デルタは大韓航空や中国東方航空などとも提携を強化している

森本支社長: その方が便数も、就航都市数も多くなるし、一貫したサービスが要求されるのでサービスレベルも上がります。昔みたいに少ない機数・便数でかつ、そんなに飛行機が長い距離を飛べないという時代とは変わって、これだけ飛行機の性能もあがって、これだけアジアの航空会社も力をつけてきたという時代ですから、 全部自社で飛ばすよりも他社と協業するというのが現実的ですよね。そう考えると、日本やアジアの航空会社と組んで、成田または羽田とつないで広げていくというのは自然な流れです。

例えば中国では、セカンダリーシティー、サードシティーに直行便を飛ばすのではなく、中国南方航空や中国東方航空のハブに乗り入れて、その先は両社の国内線ネットワークにつなげることで路線を拡大しています。間もなくオープンスカイが実現するメキシコでのアエロメヒコもそうです。世界中に大きなネットワークを構築しているデルタでは、主要なマーケットにネットワークを持っている航空会社と組み、お互いのハブ空港をつなげることで効率的にネットワークを拡大するという戦略をとっています。

武藤氏: テクニカルな面で言うと、中国はまだオープンスカイになっていないですよね。つまり、デルタが自分で以遠路線を運航できない。その意味で、"ハブ紛争"というのは実質的な意味が薄れていると思いますが、韓国ではすでにオープンスカイになっています。仁川からの以遠路線はどうでしょうか?

森本支社長: デルタは現在、シアトルとデトロイトから仁川へ2路線を運航しており、2017年にはアトランタ=仁川線を就航します。大韓航空は仁川をハブとしてアジアに広範なネットワークを持っているので、そこをコードシェアで使っていきます。

武藤氏: 今回のデルタの戦略を機に、もう少しハブ空港の議論を表面的な感覚論の問題ではなくて、実質的にそれぞれのプレイヤーにとって何が問題なのか、そもそも日本にとって問題があるのかという議論がもっと進んだ方が、日本の航空に関わる人たちにとってもいいんじゃないのかなって気がしてきますよね。

森本支社長: 訪日外国人の数字が過去と違って2桁の成長をしていますよね。この2,000万人がかなりの大台だと思っていたのに、いつの間にか4,000万人という、とてつもない数字にまできています。この人たちは日本を通過しているのではなく、実際に日本国内でお金を使っている人たちなので、この観点からどれだけアメリカから日本に観光客なりビジネス客なりを増やせるかという議論をしていかなければいけない。そうなると、乗り継ぎにどこの空港を使うかということ自体には意味はないのではないでしょうか。

そもそも"成田しばり"はない

武藤氏: デルタの日本市場に関する戦略のお話の中でありました、「アメリカの航空会社には"成田しばり"がない」というのがかなり衝撃的でした。

「アメリカの航空会社には"成田しばり"がない」という発言も飛び出した

森本支社長: 逆に、「"成田しばり"ってなんですか? 」と思っていました。実際、直接"成田しばり"に関して当局と話をしたことがないですから。

武藤氏: 中東エアラインの場合、"成田しばり"の前の議論で、"関空・中部しばり"というものがありました(注: 中東のエアラインが成田空港に就航するには、関空か中部のいずれかに就航することが求められた)。2015年にカタール航空が関空から撤退しているので、実質的にはなくなっているとは思います。

他方、エミレーツ航空の関空線、エディハド航空の中部線はまだマーケットがあるのと、エティハドは中部から北京経由の運航でこの路線をやめると希少な北京の枠を返さないといけなくなるので撤退しない、という状況もあります。相手国や航空会社にとってプレッシャー的な"○○しばり"も、今回のデルタの米国線の路線のスイッチを機に、今後はクリアになってくるんじゃないのかなって思うんですよね。

森本支社長: "成田しばり"については発言する立場にありませんが、実質的に羽田はオープンスカイではないのに、ATI(独占禁止法適用除外)付きのJV(ジョイントベンチャー: 共同事業)を認めていることの方が、問題視すべきではないでしょうか。

武藤氏: JV先とのコードシェア便をカウントすれば、デルタはユナイテッド航空やアメリカン航空よりも羽田の便数が劣るという主張ですね。次の羽田増枠の争奪戦は熾烈になりますね。 他方、成田は羽田への危機感もあって、地元とカーフュー(離着陸制限)の問題について議論を進めていますけど、成田の運用時間の延長はデルタにとっても影響はあるんでしょうか。

森本支社長: デルタの米国路線とアジア路線の発着時間は午後の時間帯に集中させているので、空港の運用時間が延長されても、デルタ便の運航に大きな影響があるということはありません。雪や台風など不慮の事態が発生した時には、柔軟に対応していただいています。

武藤氏: 成田、地元にとっては大きな問題ですが、まずはLCCの稼働向上というところでしょうか。スカイチームのアライアンスに関しては、仁川(大韓航空)や上海(中国南方航空や中国東方航空)では相手があるので非常に展開しやすいというのはあると思いますが、日本でのアライアンスを巡る取り組みというのはありますでしょうか?