「ブラック企業」という言葉は、今や知らない人がほとんどいないぐらい有名な言葉になりました。就活生の多くも「ブラック企業に就職するのは嫌だ」という気持ちで就職活動をしていることと思います。

もっとも、「ブラック企業にさえ就職しなければそれで安心」と単純化して考えてしまうのは間違いです。「ブラック企業」という捉え方をする場合、その対象となる最小単位は1つの会社です。しかし実際には、1つの会社の中にもさまざまな部署が存在し、部署によって働き方に大きな差が出ることは少なくありません。世間では優良企業だと言われている会社であっても、その中に「ブラック部署」が存在する可能性は十分にありうるのです。

そういう意味で、入社後どの部署に配属されるかは、どの会社に入るのかと同じぐらい重要です。就職先の決定と違って、配属先の決定は会社側に絶対的な決定権があるので新入社員にできることは決して多くはないのですが、それでも可能な限りブラック部署に配属される確率は下げておきたいものです。

配属先決定のプロセス

配属先の決まり方は会社によってまちまちですが、一般的には (1)部署側の都合、(2)本人の適性、(3)本人の希望、を勘案して決めるのが普通です。このうち、(1)については新入社員にできることは何もありません。しかし(2)と(3)については、ある程度の「努力」をすることは可能です。

具体的には「新人研修」と「配属面談」をうまく活用することです。

まずは部署の情報を集めよう

最初にやるべきは、部署について確かな情報を集めることです。入社すると、内定者時代には知り得なかったこともわかるようになります。「◯◯部はすごく雰囲気が悪いらしい」といったうわさも耳にするでしょうし、実際にその部署で働く人がどんな顔をして働いているかを見れば、なんとなくその部署がどんな雰囲気かの察しもつきます。

内定者の時に「よさそうだな」と思っていた部署が、実際にはブラック部署だということもあるので、配属先の希望を既に決めているという人も、一度「社内から見て実際にどうか」は確認しておくべきです。

実は僕も、入社後の「実態」を見て希望配属先を切り替えた経験があります。入社前、僕はある部署(仮に「A部」としておきます)に配属されることを希望していたのですが、実際に入社してからA部で働く社員がいつも疲れた顔をして働いているのを目撃し、さらには社内でA部は「不夜城」と称されていることを知って、慌てて希望配属先を切り替えました。あのまま突き進んでいたらと思うと、今でもゾッとします。

研修では頑張り過ぎない

研修を通じて「ストレス耐性」や「精神力」が高いと人事から判断されてしまうと、それがそのままブラック部署への配属につながってしまう可能性があります。「あの部署は大変な部署だけど、あいつは根性があるからきっと大丈夫だ」と思われてしまうのです。

そうならないためにも、新人研修は「ほどほどに」過ごすことをおすすめします。不真面目になりすぎて目をつけられるのは避けたいですが、一方でやる気を出しすぎて「あいつならどの部署に行っても耐えられる」と勘違いされては目も当てられません。

例えば、研修の課題のために徹夜をして、会社に泊まりこむなど論外です。研修期間中は「努力・根性」は封印しましょう。むしろ「体力に自信がないからいつもみんなより一足先に帰る」ぐらいでちょうどいいのです。

配属面談では「現実的な希望」を出す

配属面談では、必ず希望の部署を伝えましょう。その際には、「現実的な希望」を言うという観点が大事です。あまりにも自分の適性とかけ離れた部署を希望してしまうと、人事も受け入れることはできなくなります。仮に自分が人事でも、自分をそこに配属させることは合理的だと思うような、そんな現実的な希望を根拠と一緒に伝えられるとよいでしょう。希望は1つだけでなく、いくつか出せるとさらに安全度は高まります。

1番ダメなのは、「どこでもいいです」と決定を完全に相手に委ねてしまうことです。希望は必ずしもかなうとは限りませんが、言っておけば考慮はされます。言わなければ、考慮のされようがありません。

それでもブラック部署に配属されてしまったら……

ここまでやったとしても、やはり配属から「運」の要素を除去することはできません。運悪く自分の望まない部署に配属されてしまうことはありえます。

その際にどうすればよいかはとても難しい問題です。解決策は状況に応じて個別具体的な検討が必要ですが、ひとつだけ言えることは「異動の時期までじっと耐えろ」が唯一の正解ではないということです。

人生の時間は有限です。時間を無駄遣いしないために、耐えるのではなく自ら違う環境に移る選択をするのも、ひとつの考え方だと僕は思います。


日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。

(写真は本文とは関係ありません)