サイバーエージェント 人事本部 労務グループの田村有樹子さん

近年、有名人が妊活休業を公表するなど、「妊活」という言葉が一般的になりつつある。しかし、不妊治療を目的とした休暇制度を設けている企業は、まだ少ない。また、制度があっても実際には利用しづらいという声も多く聞かれる。

そんな中、大手で初めて妊活支援を前面に打ち出した新制度「macalon(マカロン)パッケージ」を2014年に導入したのが、サイバーエージェントだ。新制度導入の背景や具体的な内容について、同制度の名付け親でもある人事本部 労務グループの田村有樹子さんに話をうかがった。

妊活から復職後までトータルサポート

「macalon(マカロン)パッケージ」は、「妊活休暇」「妊活コンシェル」「キッズ在宅勤務」「キッズデイ休暇」「エフ休(Female休暇)」の5つの制度で構成されている。同パッケージの最大の特徴は、既存の産休・育休とは別に、妊活から復職後のケアまで、出産の前後にわたり包括的に支援する点にある。

「妊活休暇」は月に1度、不妊治療や検査を目的とした通院などに利用できる。投薬後の急な体調不良などを考慮し、当日取得も可能とした。「妊活コンシェル」は、月1回30分、専門医の個別カウンセリングを無料で受けられる。男女ともに利用でき、社外のパートナーとの受診も可能だ。

復職後の社員向けにも2つの制度を新設した。「キッズ在宅勤務」は、子どもの急病や学級閉鎖などの緊急時に在宅勤務ができ、こちらも当日取得が可能だ。「キッズデイ休暇」は、学校行事や誕生日などのイベント時に、年2回(半休×2)を取ることができる制度。いずれも男女ともに利用できる。

さらに、「妊活などの理由は上司に言いづらい」という女性社員の声から生まれたのが「エフ休(Female休暇)」だ。妊活休暇をはじめ、生理休暇や通常の有給休暇など、女性が取得する休暇はすべて「エフ休」に統一。周囲に利用用途がわからないように配慮した。

子どもを望まない社員も使える制度

現在、サイバーエージェントの女性社員比率は32%。育休後の復帰率も94%と高い数値を実現している。このように、今でこそ女性が働きやすい企業風土が根付いている同社だが、2014年に「macalon(マカロン)」を導入するまでは、法令で定められた産前・産後休暇があるのみ。「女性が出産後も働きやすい」風土づくりは進めていたものの、一部には「出産後、復帰するなんて考えられない」という雰囲気があったという。

1998年設立のサイバーエージェント。現在の女性社員比率は32%、その内の約20%がママ社員だ

新制度導入のきっかけとなったのが、2014年2月に開催された「あした会議」だ。これは、役員と選抜メンバーで新規事業について協議する場。当時、創立17年目で社員の平均年齢が29歳と上がり、出産を望む社員が増えたことから子育て支援が議題にあがった。その際、社長の藤田晋氏が「実効性とインパクトがあるものを」と妊活支援を提案したのだ。

「当社には、『挑戦と安心はセットである』という人事制度のポリシーがあります。安心して働ける環境がなければ、思い切ったチャレンジはできません。妊娠・出産に伴う将来の不安を取り除き、がんばりたい人ががんばれる環境をつくりたいと考えました」と田村さん。加えて制度設計時に配慮したのが、一部の社員だけが優遇される印象を与えて”しらけ”が生じないようにという点だ。

「妊娠・出産を望む社員だけでなく、望まない社員を含め、できるだけ多くの社員にとって意義のある制度にしたい」と心を砕いた。例えば、「妊活コンシェル」は、女性の健康管理や体調不良に関する相談など、妊活目的以外の利用も可能とした。「キッズデイ休暇」をあえて半休にしたのは、家族行事で全休を取ることに抵抗のある男性社員も気軽に利用できるようにとの配慮からだ。

また、制度だけを利用するフリーライダーを出さないために、「女性社員の活躍の場を広げ、成果を出してもらうための制度である」という目的を説明会で周知した。同時に、管理職には「マネジメントに関して不安が生じたときには相談してください」と伝えて協力を求めた。さらに、こだわったのがネーミングだ。「一度聞いてすぐ覚えられるように」と、何度も提案を繰り返し、最終的に選ばれたのが「macalon(マカロン)」。この名前には、「ママが、サイバーエージェント(CA)で、長く(long)働けるように」という願いが込められている。

後編では、新制度導入後の具体的な変化や今後の課題について紹介する。