漫画家・羽海野チカによる大ヒット漫画『3月のライオン』。将棋界を舞台に、プロ棋士である1人の高校生・桐山零が、壮絶な過去を持ちながらも周囲の人間との関係を深め、成長していく。個性豊かなプロ棋士達、零と交流を深める下町の川本家の姉妹たち、零の育ての親である棋士・幸田家の家族など、それぞれのキャラクターの背景や思惑がより合わさった人間ドラマが2部作として映画化され、すでに前編が3月より上映中、後編も4月22日より公開となる。

ドラマ&映画『ハゲタカ』、映画『るろうに剣心』シリーズなどのヒット作を手がける大友監督だが、今回の主人公は高校生。恋愛をテーマにした青春映画が多く作られる中、『3月のライオン』の立ち位置とは。

強くなるためには、それだけやっていてもダメ

――監督のこれまでの映画と比べると、主人公の桐山零は高校生ということで、年齢が若いのかなと思いました。

物理的に若いけれども、精神的には老けているなと思っています(笑)。将棋をやっていますからね。友達と野球やサッカーをやるような、普通の人とは違う生き方をしていて、しかも家の中でも将棋だけの世界に放り込まれて。普通であれば、家族のおかげでホッとすることもあるだろうに。

また、幸田家という家族の中に一人だけ全く違う人間として入っていって、「こういうことを言ってもいいのかな」「お父さん、お母さんの機嫌はどうなのかな」とか、言いたいことがあっても飲み込んでしまうしかなかったという生き方をしている。内省的で、ある意味老成している子だと思います。

――実際、社会人として自分で稼いでいますもんね。

17歳で、プロとして給料を700万円ももらって、ウォーターフロントで一人暮らしをして、羨ましいぞみたいなところはありますよね(笑)。ただ彼はそうじゃない全く違う孤独を抱えていて、やっぱり普通の17~8歳の物語ではないですよね。

ただ渦中にいるとわかんなかったりするんですけど、自分も一人暮らしをしていたから、その時に考えてることを思い出したりもしました。思春期だから女の子と付き合うことも大事で、頭の中は恋愛映画みたいなことにはなるんだけど、思い出してみると、それだけ考えていたわけじゃないよな、という。零は恋愛について考える隙もない生き方をしているわけじゃないですか。

自分もたしかに何かこう、抱えきれない寂しい孤独や不安がある。思春期って、そうですよね。まだそういう気分も、何者でもなかった自分も、持っていたよね、と。女の子と楽しく付き合って、映画みたいに壁ドンできるのは0.5割くらい? で、ほとんどの子が零に近かったんじゃないかな。そういう意味では、年齢も関係なく、普遍的で共感できる人物になっていたと思います。

■大友啓史
1966年生まれ。岩手県出身。1990年にNHK入局、1997年から2年間L.A.に留学し、ハリウッドで脚本や映像演出を学ぶ。帰国後、NHK連続テレビ小説『ちゅらさん』シリーズ(01~04)、『ハゲタカ』(07)、NHK大河ドラマ『龍馬伝』(10)などの演出、映画『ハゲタカ』(09)の監督を務める。 2011年にNHKを退局し、株式会社大友啓史事務所を設立。『るろうに剣心』(12)、『プラチナデータ』(13)を手掛ける。2部作連続公開した『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)が2014年度の実写邦画NO.1ヒットを達成すると共に、ファンタジア国際映画祭観客賞、日刊スポーツ映画大賞石原裕次郎賞、日本アカデミー賞話題賞など国内外の賞を獲得し、世界的にその名を知られる。近作は『秘密 THE TOP SECRET』(16)、『ミュージアム』(16)など。

(C)2017映画「3月のライオン」製作委員会