厚生労働省は10月7日、2014年に成立した「過労死等防止対策推進法」に基づく「平成28年版過労死等防止対策白書」を公表した。同法では、過労死を取り巻く現状や政府の対策について国会への年次報告を義務付けており、同白書の作成は今回が初。業界ごとの長時間労働の現状や、対策の実施状況などがまとめられている。

労働時間の状況や残業が発生する理由などに関するアンケート調査は、「過労死等が多い」との指摘のある業種などを重点に対象を選定。「過労死等」とは、業務における過重な負荷による脳血管疾患もしくは心臓疾患を原因とする死亡、もしくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡またはこれらの脳血管疾患、心臓疾患、精神障害を意味する。

企業に関する調査は郵送により約1万社(回答数1,743件)を、労働者に関する調査は調査会社にモニターとして登録している約2万人(回答数1万9,583件)を対象に実施したという。

労働時間に関する質問(企業を対象)では、業種別の正規雇用従業員(フルタイム)の月間時間外労働時間を調査。平均的な月における、1カ月あたりの時間外労働が45時間を超える割合が最も多かったのは「運輸業/郵便業」(14.0%)となっている。その次に多い「宿泊業/飲食サービス業」(3.7%)の4倍近い数値となっており、突出した値となっている。また、「月間20時間超」と回答した企業の割合についてみると、「運輸業/郵便業」(54.7%)、「情報通信業」(53.7%)、「建設業」(48.7%)の順に多くなっている。

業種別の平均的な月における正規雇用従業員(フルタイム)1人当たりの月間時間外労働時間(企業を対象)

正規雇用従業員(フルタイム)の1カ月間における最長時間外労働時間に関する質問(企業を対象)において、月間時間外労働時間が80時間を超えていた割合が最も多かった業種は「情報通信業」(44.4%)。次いで「学術研究/専門・技術サービス業」(40.5%)、「運輸業/郵便業」(38.4%)となっており、全体の平均値(22.7%)をそれぞれ大きく上回っている。

平均的な1週間当たりの残業時間(正社員<フルタイム>業種別: 労働者を対象)

過去1年間における、残業時間が最長だった週の残業時間に関する質問(労働者を対象)をしたところ、業種別の平均では「学術研究/専門・技術サービス業」(18.0 時間)がトップとなっている。2位以下は「情報通信業」(17.0時間)、「建設業」(15.9時間)となっている。また、その残業時間が「20時間以上」と回答した労働者の割合は、「学術研究/専門・技術サービス業」(39.2%)、「情報通信業」(37.5%)、「教育/学習支援業」(32.8%)の順に多くなっている。

残業時間が最長の週の残業時間(正社員<フルタイム>業種別: 労働者を対象)

さらに労働者調査において、正社員(フルタイム)の平均的な1週間当たりの残業時間に関し、性別にその平均をみると、男性が8.6時間、女性が5.2時間となっている。また、その残業時間が20時間以上と回答した労働者の割合は、男性が11.6%、女性が5.1%となっている。

所定外労働(残業)が発生する理由に関し、企業および労働者のそれぞれの回答もまとめられている。

企業側は「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」「業務量が多いため」「仕事の繁閑の差が大きいため」などを回答理由として挙げている場合が多い。特に「建設業」「情報通信業」「運輸業/郵便業」「卸売業/小売業」では「顧客(消費者)からの不規則な要望に対応する必要があるため」を挙げる企業が最多となっている。

一方、正社員(フルタイム)の労働者調査において、所定外労働が必要となる理由をみると、「人員が足りないため(仕事量が多いため)」「予定外の仕事が突発的に発生するため」「業務の繁閑が激しいため」を挙げる労働者が多かった。特に「建設業」「情報通信業」「卸売業/小売業」「宿泊業/飲食サービス業」などで「人員が足りないため(仕事量が多いため)」を挙げる労働者が最多となっており、「学術研究/専門・技術サービス業」では「予定外の仕事が突発的に発生するため」を挙げる労働者が最も多くなっている。

正社員(フルタイム)の労働者調査において、最近1カ月間の勤務の状況や自覚症状に関する質問により判定した疲労の蓄積度(厚生労働省が平成16年に公表した「労働者の疲労蓄積度自己チェックリスト」により判定したもの)が「高い」および「非常に高い」と判定される者の割合も調査した。

回答者の勤務先を業種別にみると、「宿泊業/飲食サービス業」(40.3%)が最も高かった。次いで「教育/学習支援業」(38.9%)、「運輸業/郵便業」(38.0%)の順となっている。

疲労の蓄積度を平均的な1週間の残業時間別にみると、週の残業時間が「0時間」では、疲労の蓄積度が「高い」または「非常に高い」と判定される者の割合は10.1%だった。ただ、残業時間が増えるにつれてその割合は高くなっており、「5時間以上10時間未満」では27.3%、「10時間以上20時間未満」では45.3%、「20時間以上」では72.5%となっている。

業種別の疲労の蓄積度(正社員<フルタイム>: 労働者を対象)

ストレスに関しても、同様の傾向が出ている。平均的な1週間の残業時間別にみると、「GHQ-12(GHQ<The General Health Questionnaire: GHQ 精神健康調査票>はイギリス Maudsley 精神医学研究所の Goldberg博士によって開発された質問紙尺度。今回の調査では4点以上を高ストレス状態として区分している)」による判定が4点以上の人の割合は、週の残業時間が「5時間以上10時間未満」では34.5%、「10 時間以上20時間未満」では43.4%、「20時間以上」では54.4%となっている。

業種別のストレスの状況(正社員<フルタイム>: 労働者を対象)

なお、詳細な報告書は厚生労働省のホームページにて確認できる。

※画像はすべて「平成28年版過労死等防止対策白書」より