博報堂には、自らを"赤点パパ"と名乗りながらも、お父さんの育児を「理想」から「行動」に変えていこうとしているワーキンググループの活動がある。その名も「パパハックション」だ。 “家族の日”である2015年11月15日から、同社の「こそだて家族研究所」に所属する男性メンバーが始めたもので、パパの仕事と子育てを両立するための具体的な行動アイデアや実践ネタを「HACKTION」と命名。教科書的でない育児の"ティップス"をウェブページ上で紹介している。

彼らが活動を始めたきっかけは、「こそだて家族研究所」が発表したひとつの調査結果にある。「現代パパの子育て事情」と題した調査では、子どものいる既婚男性のうち、80.0%の人が「男性でも仕事と育児の両立は必要だと思う」(「そう思う」「ややそう思う」をあわせた割合)と回答。一方で、「誰でも努力次第で仕事と育児は両立できると思う」(「そう思う」「ややそう思う」)と答えた人は45.4%にとどまったのだ。

「現代パパの子育て事情 調査結果」(2015年3月7日~8日の期間にインターネット上で行われ、0~12歳の子どもを持つ既婚男性1,079名から回答を得たもの)

この回答結果のギャップを受けて、「なんとかしなければ」と感じたという同グループのメンバーたち。育児休業を取得したり、家事に積極的に取り組んだりするイクメンが少しずつ増えている中、"赤点パパ"たちがこのような活動を始めたのはなぜなのか。さらには、育児を行動に移すためにお父さんたちの「壁」となっているものは何なのか。活動メンバーの男性社員5人と、子育て中の女性社員2人に語ってもらった。

左上から時計回りに大﨑涼介さん、亀田知代子さん、脇田英津子さん、山崎雅信さん、木村俊介さん、尾崎徳行さん、白井剛司さん

「イクメン」はハードルが高い?

――この活動を始めるにあたって、男性の育児に対して皆さんどのようなイメージを持っていましたか。

「パパハックション」リーダーで、中学2年生の男の子、小学6年生の女の子、小学1・3年生の男の子、あわせて4人のお子さんを持つ尾崎さん

尾崎さん「この調査をするときからパパで集まって話していたときに、イクメンってどうなの、という意見が結構多かったんですね。イクメンと言われちゃうと、ちょっとハードルが高いなと。イクメンって言われるほども、なかなかがんばれないなという意見がありました」。

白井さん「子どもがうまれて男性の育児についていろいろ調べたんですが、あまりにハードルが高すぎて恥ずかしながら挫折したというのが正直なところです。どうしても子どもがうまれるまでの長い間、仕事中心で生活が回ってきたので、落差が大きくて。一方でイクメンになるには何が正しいのか、平均的にはどのラインなのかという疑問もありました」。

山崎さん「イクメンって100か0みたいなイメージがあって、子育てをするならイクメンレベルでコンプリートしなきゃいけない、それができなければ子育てしていないみたいになってる気がします。でもこちらからしてみると、やれることが分解されていなくて、100のうちの0.1がわからないという状態。1個ずつやれることを積み上げて子育てをやっているという実感が持てないかなということで、この活動を始めようと思ったんです」。

家事ができない、何をすればいいのかわからない

――イクメンはハードルが高いということですが、育児を行動へ移すための「壁」となっているものはなんなのでしょうか。

2歳児の男の子のパパ、白井さん

大﨑さん「壁となるのはどうしても仕事ですね。入社3年目なので自分の裁量ではどうしようもない。でも奥さんからは『仕事と家庭どっちが大事なの』とは聞かれないので、現状としては現在の育児の関わり方で奥さんの満足は得られていて、奥さんが受け入れてくれている壁なのかなと」。

――夫婦それぞれの働き方によっても、育児の関わり方は違うかもしれないですね。共働きの家庭ではどうですか?

山崎さん「夫婦共にフルタイムで働いていますが、子どもが3歳になってようやく夫婦の育児分担バランスが落ち着いてきた。けれど、当初は料理とか洗い物を無理にやろうとして嫁から怒られたりしましたね(笑)。

これまで仕事しかしていなくて、子どもがいなかったときも家事的なものをやってこなかったので、何をすればいいのかわからないんですよ。やるべきことがわからない、本当にわからない」。

白井さん「ゴミ捨てと自分の服など出来る範囲の洗濯は一応やっているんです。あと、家にいるときはオムツを替えたり風呂に入れたりと。でも、自分でやれることを見つけるとか、ある一定の水準を求められると難しい。はっきりこれやってくださいって言ってもらって、必要なことをやり始められたらとは思うんですけど。ってレベル低いという自覚はあるのですが」。

男性の"育児のスイッチ"はどこにある?

――これらの男性の意見を聞いて、女性はどう思いますか。

中学3年生の男の子のママ、脇田さん

亀田さん「家事が大変っていうことではなくて、子どもの面倒をみながらする家事、いろんなものを同時進行でやっているときに何か1つ荷を下ろさせてもらうとありがたいのにって思うときがあるんですね。それはもしかしたら、家事をしている間に、子どもと一緒に遊んでいてくれるということでもいいんですけど、そこで『買い物行ってくるよ』って言われるとそうじゃない」。

脇田さん「私の子どもは、現在中学3年生なので、一番大変だったときはかなり前。保育園のお迎えとか朝食とか育児の分担を夫婦で決めました。それでも子どもが突発的に熱を出したときに、仕事を休むのは私なんですよね。同じようにフルタイムで働いていて、私は覚悟を決めて断るものを断り、どうしたら生産性上げられるかって必死でやって、夜中や朝に帰ってきても朝ごはんをつくっている。これだけ本腰入れてやっているのに、旦那さんから『でも、仕事を断れない』って軽く言われたりするとイラっとしました」。

尾崎さん「確かに子どもが風邪をひいたりしたときに、男性ってわりと仕事があるからしょうがないとなってお母さんに任せることが多いですよね。最後の砦感がパパはないって言われる。たぶんそこはお母さんとお父さんの働き状況で変わるとは思いますが、ママの方がそういう気持ちが強いので、パパが最後の砦をつくっていかないと両立しているって言えないなとは思います」。

脇田さん「どうしても出産を経て育児に関しては、最初は女性がメインになると思います。そこで女性はスイッチ入れなきゃいけないって覚悟ができる。お父さんの場合、どうやったら同じようなスイッチが入るのかなとは思いますね」。

「仕事と育児の両立」という以前に、育児に関わるために何をしたらいいのかわからない、育児に本腰を入れるための「スイッチ」を入れにくいという課題が浮かび上がった座談会。これらの課題をどのように改善していったらいいのでしょうか。座談会の後半の議論は後編でお伝えします。