ずっと売上の右肩下がりが続いている出版業界ですが、その屋台骨を支えているのはなんと言っても「漫画」です。連載をしている雑誌がたとえ苦戦してしても、単行本の商売で儲かるという図式ですね。では、実際に漫画の単行本を製作するコストはどのくらいかかるものでしょうか。調べてみました。

印刷を請け負う印刷会社によって価格が違いますので、それを念頭にお読みください。

B6版の漫画単行本を想定

版型は、本屋さんで「青年漫画」という棚に並ぶB6版。折数は8折(ページ数でいうと128ページ)、これにカバー、帯、スリップ、はがきを付けたものを想定します。本文はモノクロ、カバーは4色のPP加工(ウラはシロ)、帯は2色、スリップは1色、ハガキも1色です。入稿形態は完全デジタルの「完パケ」データで印刷所に持って行きます。このスペックで1万部を製作するとどうなるか、印刷所に見積もりをとってみました。

1万部の製作コスト

  • 製版代:39,000円

  • 刷版代:60,000円

  • 印刷代:159,000円

  • 用紙代:610,624円

  • 製本代:275,000円

  • 加工代:60,000円

  • 合計:1,203,624円

これに営業管理費120,362円と調整費(割引)-3,986円が加算されて、総額1,320,000円が営業マンから提示されました。1冊あたりにすると132.00円です。

ちなみに同様のスペックで3,000部、5,000部、8,000部、20,000部の見積もりも取ってみました。結果は以下のようになりました。

同スペックでの1冊あたりの製造コスト

  • 3,000部:200.00円

  • 5,000部:160.00円

  • 8,000部:142.00円

  • 10,000部:132.00円

  • 20,000部:119.00円

当たり前ですが、印刷部数が上がれば上がるほど1冊当たりの価格は下がります。これは何部作っても製版代、刷版代は同じ金額で変わらず、印刷部数が上がれば上がるだけそれが薄まるため。また、輪転機が使える部数であればその分コストダウンになること、紙の手配も大量部数の方が(グロスで)安価に調達しやすい(もちろん紙の種類によって異なります)などのグロスメリットが大きいためです。

いくらで販売するか!?

次に単行本の価格です。高く売りたいのはヤマヤマですが、あまり高くすると売れません。ここは講談社さんを参考に仮に570円としてみましょう。570円ということは税抜き価格が543円です。

取次への卸率と卸価格

本屋で単行本を販売する場合には、出版社から、トーハン、日販や大阪屋といった取次業者に卸します。取次業者から全国の各本屋さんに本がいくわけですが、出版社の商売は、基本的に取次さんに製作した本を卸する(販売する)ことで成立しています。単行本の定価×卸率=価格(卸価格)で取次さんに販売します。この卸率は各取次さんによって異なります。

有力な出版社では卸率は高く、また支払サイトも良好です。「新しく出版を始めたいんですが」という話を取次さんにしても、提示される卸率は65%がせいぜい。60%というところもあります。ちょっと渋いですが、卸率を65%で計算してみましょう。570円の単行本の税抜き価格の65%では352.95円。これが卸価格になります。

作家さんに支払う印税の計算

さて当然ですが、作家さんに印税を支払わなければなりません。これは印税率を設定して、税抜き価格にこの印税率を掛けて1冊当たりの印税額を決めます。これに掛ける印刷部数ですね。印税率というと10%と想像する人が多いかもしれませんが、これは出版社と作家さんとの話し合いで変動します。

7%という作家さんもいますし、10%を超える作家さんも当然います。漫画家ではありませんが、筒井康隆氏は若い時に、「売れているから印税を倍にしてほしい」と出版社に交渉され、出版社がそれを了承した――という伝説があります。

また、印税に関しては、製作部数にかける「生産印税」と、実売部数にかける「販売印税」の2種類がありますが、煩雑になるのでここでは割愛します。話を簡潔にするため、印税は10%で生産印税としましょう。

  • 1冊当たりの印税金額

  • 税抜き価格543円×印税率10%=54.30円

売上と粗利の計算

20,000部を製作すると想定します。これは新人作家が初めて出す単行本の部数を想定しています。これでも甘いという話があるかもしれません(笑)。また、少年ジャンプで連載している新人さんなどは、もちろん別扱いです。

  • 売上:352.95円×20,000部=7,059,000円

  • 印刷製造コスト合計:2,380,000円

  • 印税:54.30円×20,000部=1,086,000円

  • 粗利:3,593,000円

もちろん、ここで計算したのは、20,000部すべてを取次さんに卸した時に立つ「搬入売上」というもので、返本があればその分売上は下がります。では、実売率75%の場合を見てみましょう。

  • 売上:352.95円×20,000部×実売率:75%=5,294,250円

  • 印刷製造コスト合計:2,380,000円

  • 印税:54.30円×20,000部=1,086,000円

  • 粗利:1,828,250円

約180万円の儲けになりますね。もちろん、ここから制作費、営業経費や宣伝費などを引いて実際の営業利益を計算しなくてはなりません。制作費は、単行本のデザイン代、編集業務の費用です。制作費をざっくり300,000円と見れば、その時点で粗利は約150万円になります。出版業界の昨今の実売率からすれば75%というのは相当優秀な数字(笑)なので、これを達成するには営業努力、作家さんの力が必要となります。


いかがだったでしょうか。漫画の刊行にも結構お金がかかるということがわかって頂けたのではないでしょうか? 漫画の単行本刊行、やってみたいと思いますか?

(谷門太@dcp)

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