3月にリリースされた「新しいiPad」(以下、新型iPad)に隠れる形でひっそりとデビューを飾った1080p対応の新型Apple TVだが、同製品には他のモバイル製品でも利用されているA5プロセッサが採用されたことが知られている。Chipworksが4月11日(米国時間)に発表したレポートによれば、このA5は従来のモデルとは異なり、密かに32nmというより進んだ製造プロセスが採用されている可能性があるという。

ChipworksではiPhone 4Sに搭載されているA5 (APL0498)と新型Apple TVに搭載されているA5 (APL2498)のX線写真を比較し、後者に含まれるARM Cortex-A9デュアルコアのブロックのサイズが、面積比で前者に比べて40%ほど縮小していることが確認できたという。Chipworksによれば、APL0498はSamsung Electronicsの45nm LP CMOSで製造されているが、APL2498では同32nm LP CMOSのHKMG (High-K Metal Gate)が使われている可能性が高いとしている。2011年秋にSamsungが32nmならびに28nmの製造ラインでの量産を開始したことが報じられているが、この一部がAPL2498の製造に割り当てられた可能性がある。

これが事実だとして、いくつかの不明点が残っており、またここから将来について予測できることがある。まず45nmから32nmへのシュリンクが行われたとすると、面積比では縮小幅が最大で30%程度となるはずで、Chipworksのレポートにある40%という縮小幅にはならない。40%という減少幅は45nmから28nmへの移行にほぼ等しい。もしAPL2498が32nmプロセスで製造されたとすれば、何らかの最適化や機能ブロックの切除等が行われている可能性がある。そしてもう1つの疑問点は、なぜ最新プロセスが新型Apple TV向けのプロセッサでだけ採用されたかという部分だ。

推測できる理由はシンプルで、Samsungの32nm HKMGがまだ十分な歩留まりと製造量を確保できる状態ではないのではないか、ということだ。年間で少なくとも数千万、場合によっては億のオーダーに対応しなければならないiPadやiPhoneのプロセッサに対し、Apple TVは最大でおそらく数百万程度の規模で済む。つまりテストケースとして、まず要求ボリュームの少ないApple TV向けの製品を32nmに移行し、状況をみて順次残りの製品の移行を進めていくという考えだ。製造プロセスの縮小はリーク電流の軽減による消費電力の低減のほか、トランジスタ増加によるパフォーマンス向上効果がある。また既存製品をそのままシュリンクした場合、ダイサイズの減少により、より低コストで製品を製造できるメリットがある。そのため、既存製品に採用されているA5をそのまま新プロセスで製造するだけでも、Appleにとってはメリットということになる。

これを示唆するように、Chipworksが追加レポートとしてアップデートした内容によれば、新型iPadの登場とともにリリースされたiPad 2ではAPL2498が採用されていることが確認できたという。新型iPadに比べ、この新iPad 2の出荷数量は大幅に少ないとみられるため、上に記したテストケースに適した条件に合致する。A4からA5への移行にあたり、製造プロセスは従来のものがそのまま採用されたため、最新のA5XではA4との比較でダイ面積にして3倍近い大きさになっている。A5でもA5Xの4分の3程度のサイズであり、いかに巨大化が進んでいるかがわかるだろう。APL2498の場合、これが初代A4程度の水準まで下がるため、非常に効果が大きいことがうかがえる。APL2498が全製品ラインに浸透するかは、SamsungのFabの製造能力いかんにかかっている。

またAppleが次世代プロセッサとして開発を進めているといわれる「A6」プロセッサでは次世代製造プロセスが利用されるとみられるが、これがSamsungの32nm (あるいは28nm)になるのか、または台湾TSMCの28nmが利用されるのかという点にも注目が集まっている。韓国発の情報ではSamsungの28nmを採用したという話もあるが、最も重要なのは大量のオーダーを捌くだけのボリュームを確保できるかという部分であり、両者がまだ小口需要にしか対応できていない点で、どちらが有利かを判断するのは難しい。

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