日本からの海外旅行先で人気の台湾に、鉄道ファンも注目している。日本の台湾統治時代に作られた鉄道施設や車両が残っているため。古き良き日本の鉄道風景を楽しめる。日本の様式に台湾料理を詰めた駅弁も楽しみ。日本の鉄道会社と提携した鉄道路線も増えており、日台の相乗効果で鉄道観光が盛り上がっている。海外遠征の第1歩として選ぶ"乗り鉄"も多いようだ。

彰化扇形庫。ここで動態保存されているCK120型蒸気機関車(CK124号)は日本製で、日本国鉄のC12形の同型車だ

高雄ライトレールは台湾唯一のLRT。そして世界初の蓄電池路面電車営業路線

日本統治時代に完成した旧鉄道工場"台北機廠(きしょう)"の跡地は鉄道博物館として整備されると決まり、7月から一般公開が始まる。日本の鉄道博物館も協力し、今後、10年かけて大型鉄道博物館へ整備されるという。台湾中部の阿里山森林鉄路は特に人気があり、大井川鐵道と30年以上も姉妹鉄道の関係だ。残念ながら路線の一部は1999年の大地震で被災し、完全復旧までしばらくかかるという。全通が楽しみだ。

懐かしい鉄道風景もあれば、新しい鉄道風景もある。台湾高速鉄道では日本製の新幹線車両が走り、高雄では架線レスの高雄ライトレールが走り始めた。そんな台湾の鉄道の"現在"を楽しめる、3つのエリアを紹介しよう。

渓谷の風、古い街並み - 平渓線

平渓線は台北から東へ約25kmの山の中にある三貂嶺駅と菁桐駅を結ぶ。約13kmの短い路線で、ほぼ全区間が基隆河に沿う。森と渓流の風景を眺めつつ山の中に分け入っていく。四季折々の風景を楽しめる路線だ。

日本車輌製造製のDR1000形気動車。十分駅付近で商店街を通る

平渓線は日本統治時代に菁桐の石炭を搬出するため、1922(大正11)年に開業した。現在は石炭輸送の役目を終えて、観光路線として親しまれている。江ノ島電鉄と提携しており、江ノ電の使用済みフリーきっぷを持参すると、沿線店舗の特典付きの平渓線沿線日本語ガイドブックをもらえる。

沿線の見どころは台湾のナイアガラと呼ばれる十分瀑布。幅40m、落差20mのカーテン形の滝だ。十分駅から徒歩20分。また、十分駅から徒歩15分の新平溪煤礦博物園區は旧炭鉱の遺構を残す博物館で、トロッコ列車に乗れる。約1km、10分ほどの走行で、緑のトンネルをゆったり走る。十分駅では途中下車の時間をたっぷり取っておきたい。

東洋のナイアガラ、十分瀑布は駅から徒歩圏

平渓線沿線はスカイランタン(天燈上げ)観光でも知られている。ランタンは大きな紙風船で、願い事を書いて飛ばすと叶うという。台湾では旧正月にランタンを飛ばす習慣があるけれど、平渓線の主要駅では常にスカイランタンを楽しめる。熱でフワリを上がっていく様子を眺めても楽しいし、自分で上げてその風景に加わりたい。

台北から三貂嶺までは縦貫線と宜蘭線に乗り継いでいく。ただし、平渓線の列車は宜蘭線に直通しており、訪問するなら特急が停まる瑞芳駅乗り換えが便利。瑞芳駅は映画『千と千尋の神隠し』の風景だと評判の観光地、九份の最寄り駅でもある。

スイーツもおいしい台湾。これは九份の芋圓

筆者の知り合いの台湾在住ライターによると、猫好きなら猴硐駅もオススメ。こちらは宜蘭線の瑞芳駅の隣の駅。猴硐は20世紀前半に炭鉱として発展を遂げた場所で、1990年代に廃鉱後、ネズミ除けに飼われていた猫たちだけが残され、繁殖して今では「猫の村」と呼ばれるようになった。平渓線の列車が直通運転しているから、往路か復路に立ち寄ってみよう。

続いて「集集線」の魅力をご紹介!

雄大な自然と鉄道遺産 - 集集線

日本様式を残す集集駅

集集線は台湾西側中部の二水駅から内陸へ向かい、車埕駅に至る路線だ。路線距離は約30km。行き止まり式の支線としては台湾では最も長い。線路も台湾で最も長い川"濁水渓"に沿っている。列車は大河や森林を眺めつつ、広い河岸段丘の街を結ぶ。駅周辺も含めて、のんびりとした南国ムードを感じる路線だ。

新しいけど懐かしい車埕駅の木造駅舎

車埕駅構内に貨車が保存されていた

集集線は東洋最大級の明潭ダムと水力発電施設の建設資材を運ぶために作られた。開業は日本統治時代の1921(大正10)年だ。平渓線と同じく、本来の役目を終えたあと、台湾屈指の景勝地、日月潭へのアクセスルートとして親しまれている。日月潭へ向かうなら、車埕駅のひとつ手前の水里駅からバスで20分。なお、将来は車埕駅と日月潭をロープウェイで結ぶ構想もある。車埕駅から明潭ダムまでは徒歩15分。水辺の景色を楽しめる。

日月潭は水里からバスで20分ほど。明潭ダムと合わせて訪れたい

鉄道ファンなら、建設時代の建物などがそのまま残され、現役で使われている様子に感動するだろう。日本より日本らしい鉄道風景かもしれない。特に集集駅の駅舎は開業当時のままの立派な木造駅舎で、日本からの観光客も多かった。1999年の大地震で被災したものの、現状修復工事を実施の上、政府から歴史建築物に指定された。日本の台湾統治への郷愁を語る逸話のひとつとなっている。隣の水里駅は南国風の大型駅舎だ。同時代に、これほど異なるデザインが採用されたとは興味深い。

集集駅付近には集集鉄路文物館という博物館があり、資材輸送から観光鉄道へ変遷していく集集線の歴史展示、蒸気機関車の保存展示などがある。終点の車埕駅は、資材輸送時代の広大な線路施設を残している。留置線には貨車やディーゼル機関車もあり、石炭補給所、検車庫などは当時のまま。カフェに改築された建物もある。ただし駅舎は1999年の大地震で崩壊したため、2001年に建て替えられた。その新しい木造駅舎も日本の大正時代を彷彿とさせる。大きく、優雅な建物だ。

集集駅に隣接する鉄路文物館

集集線も日本の鉄道会社と交流しており、千葉県のいすみ鉄道、または、静岡県の天竜浜名湖鉄道の使用済み一日乗車券を持参すると、集集線の一日乗車券と交換できる。その逆も可能で、集集線の使用済み一日乗車券があれば、いすみ鉄道、天竜浜名湖鉄道の一日乗車券と交換できる。この機会に乗り比べると楽しそうだ。

続いて台湾在住ライターのオススメをご紹介しよう!