連載『老後サバイバル』では、フィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長の野尻哲史氏が、同社が勤労者3万人を対象に実施したアンケート結果などをもとに、退職後にいかに備えるかについて考察します。


若いのに多くの金融資産を保有している人が多数

2014年4月の勤労者3万人アンケートでは、驚くべき回答がありました。一般に年齢が高くなるほど保有する金融資産が増える傾向にあり、3万人のアンケートでもその傾向はくっきりと浮かび上がっています。しかし、それと同様に若いのに多くの金融資産を保有している人も少なからずいたことです。

アンケートのうち20代の回答者は6188人に達しました。そのうち20代で金融資産1000万円以上を保有する人が454人もいました。20代全体の7.3%です。「宝くじに当たったんじゃないのか」、「きっと遺産を受け取ったからだ」といった見方もできるでしょう。しかし、この20代454人の特徴を20代平均と比べていくと、必ずしもそうした見方ができない点も出てきているのです。

「金融資産を1000万円以上保有する20代」の5つの特徴

そこで「金融資産を1000万円以上保有する20代」の特徴をみていきましょう。これは何も20代に限ったことではなく、“成功者になるためのお金との向き合い方”とでもいえるもので、その特徴を5つにまとめてみました。

まず第1は、公的年金への理解度が高いことです。1000万円以上の金融資産を持つ20代では「公的年金を理解している」、「公的年金の給付額を知っている」と答えた比率が半数を超えました。「宝くじに当たって金融資産が一気に1000万円を超えたとたんに公的年金について考えるようになる」とは考え難いところです。「年金について考えている人の方が資産を作っている」と考えるべきでしょう。

2つ目の特徴は、退職後の生活を楽観していないことです。「退職後の生活に公的年金以外にいくら必要か」を尋ねた設問の回答を平均すると、454人の20代は、同じ世代の平均を1000万円近く上回りました。また退職後の生活費の水準もあまり減らないだろうと警戒しています。かなり先の将来についてなのですが、楽観していないのが窺えます。これも大きな特徴のひとつです。

3つ目は確定拠出年金制度について知っているということです。確定拠出年金制度については第7回で詳しくみましたが、DCに加入している比率のみならず、「DCを知っている」比率も金融資産が1000万円以上の20代の方が高くなっています。

4つ目の特徴が出ているのは「お金の情報を入手する先」としてはどこかについての回答結果です。20代全体ではお金に関する情報の入手先として、TVの情報番組を挙げる人が多いなか、1000万円以上の金融資産を持つ20代では金融機関のWebサイトを挙げる人が20.7%と最も多くなっています。

資産を持っているから金融機関のサイトにアクセスするのか、金融機関のサイトにアクセスすることで資産を増やす情報に接するのかは、このデータだけでは断言できませんが、大きな特徴の一つです。また、もう一つ気になったのが、1000万円以上保有する20代では意外に家族との会話からお金に関する情報を得ていると答えた人が多かったことです。家庭で投資の話ができる、お金の話ができるようにすることが意外に有効なのかもしれません。

1000万円以上の金融資産を持つ20代の5つの特徴(1~4)

最後はまさしく投資への積極姿勢です。まずは「退職後の資産準備に重要と思われる方法」として資産運用を挙げた比率が高く、これは、長期の視点での資産形成が必要だという認識が高いことを示しています。その結果、実際に「退職後の資産形成として実行している策」で資産運用を挙げている比率も高くなっています。さらに、4割強が投資に対してポジティブなイメージを持っています。

1000万円以上の金融資産を持つ20代の5つの特徴(5)

資産の分散は資産を持つ人にとっては不可欠な処方箋

資産があるから投資を前向きにとらえるのか、投資を前向きにとらえているから資産が多くなっているのかは、ここでも判別できません。しかし、どちらかが原因で、どちらかが結果という単純なものではなく、互いにスパイラルに影響し合っているのではないかと思われます。

結果として、1000万円以上の資産を持つ20代では44.5%が投資をしています。非常に高い比率と言っていいでしょう。その投資対象にも特徴が出ています。金融資産1000万円以上の20代の投資の特徴は分散投資を具現化していることでしょう。20-30代は外国為替証拠金取引、FXへの嗜好が色濃く出ています。20代平均では19.9%がFXへの投資をしていると回答していますが、この点は1000万円以上の金融資産を持っている20代でもほとんど変わりません。

ところが興味深いことに、それ以外の金融資産についてはすべて1000万円以上の金融資産を持つ20代の方が多く保有しています。日本株でも、外貨預金でも、日本債券でも。すなわち、資産を持っていようとなかろうとFXには2割くらいの若者が資産を投じているが、「金融資産が増えるにしたがって他の金融資産を持つようになった」、または「他の金融資産に資産を分散させるようになって金融資産が増えるようになった」ということでしょう。いずれにしても、資産の分散は資産を持つ人にとっては不可欠な処方箋だということでしょう。

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 野尻 哲史

一橋大学卒業後、内外の証券会社調査部を経て、2006年からフィデリティ投信株式会社 フィデリティ退職・投資教育研究所所長。大規模なアンケート調査をもとに投資家への提言をするなど、投資教育に従事。「退職金は何もしないと消えていく」(2008年) 、「老後難民 50代夫婦の生き残り策」(2010年)、「40代のサイフ」(宝島社、2012年)、「50歳から始めるお金の話し」(2013年2月、小学館文庫)など著書も多数。現在、日本アナリスト協会検定会員、日本FP協会、日本証券経済学会、行動経済学会などの会員。