連載『経済ニュースの"ここがツボ"』では、日本経済新聞記者、編集委員を経てテレビ東京経済部長、テレビ東京アメリカ社長などを歴任、「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーとして活躍、現在大阪経済大学客員教授の岡田 晃(おかだ あきら)氏が、旬の経済ニュースを解説しながら、「経済ニュースを見る視点」を皆さんとともに考えていきます。


「日経平均2万円」を後押しする"4つの追い風"とは!?

日経平均株価はついに1万9000円台を回復しました。日経平均は2月19日に、2007年7月につけていた高値(1万8261円)を上回り、2000年4月以来15年ぶりの高値をつけましたが、その後も1度も2月19日の水準を下回ることなく上昇を続けています。今年1月1日付けのこのコラム(第8回)で「2015年は2万円の大台達成の可能性が高い」と書きましたが、この調子でいけば今月中に2万円回復も十分あり得るでしょう。

そのコラムでは、2万円達成を後押しする「4つの追い風」があると指摘しました。それは、(1)アベノミクスの推進など政策、(2)賃上げ、(3)原油安、(4)米国経済の好調――ですが、まさにこれが今回の15年ぶり高値を後押ししたのです。少し詳しく見てみましょう。

まず第1は、アベノミクスに関連する2014年度補正予算がすでに成立し、来年度予算案も衆議院を通過しました。近いうちに参議院でも可決され成立することは確実で、補正予算の執行とともに当面の景気を支えることになります。また安倍政権は6月に成長戦略の改定版をまとめる予定で、その議論が進められています。

第2の賃上げについては、トヨタがベア4000円、日産が5000円、電機が6000円といずれも昨年を大きく上回る賃上げが実現する見通しとなってきました。

特に労使交渉が佳境に入り、賃上げをめぐる連日の報道が株価上昇を加速させる要因となっています。先週に指摘したように、実際に賃上げが実施される4月以降は実質賃金がプラスに転換する可能性があります。このため消費増加が数字となって表れ、景気の好循環を広げることが期待されます。

第3の原油安について市場では当初、原油安による混乱や不安感から株価が下落するとの反応でしたが、最近は原油安が一段落したことで落ち着きを取り戻しました。今後は原油安によるプラス効果への期待が広がっています。ある試算によれば、原油下落で10兆円の購買が生み出されるそうです。これはGDPの2%に相当しますから、景気への貢献度はきわめて大きいものになります。

第4の米国経済も好調を持続しています。3月上旬に発表された2月の雇用統計では非農業部門の雇用者数が前月比29万5000人増となり、予想を大きく上回り、雇用の改善ぶりを示しました。一部の消費関連指標ではやや弱い数字も出て米国株の上値が重くなっていますが、全体としては引き続き景気拡大は続いています。

4つの追い風で、米国株が下落しても日本株は下げないケースも

このような4つの追い風のおかげで、最近は米国株が下落しても日本株は下げないケースが増えていることがもう一つの特徴となっています。日経平均が初めて15年ぶりの高値をつけた2月19日から3月16日までの18営業日のうち上昇したのは12日にのぼりますが、そのうち前日のNYダウが下落したにもかかわらず日経平均が上昇した日が8日もありました。普通は日本の株価は米国の影響を強く受けるため、前日のNY市場が下げると、東京市場も下げる、NYが上がると東京も上がるというパターンが多いのですが、最近はいい意味でそのパターンが崩れています。それほど、日本株の地合いがしっかりしているのです。

そして前述の4つの追い風は今後も吹き続けるでしょう。特に、第2の賃上げ、第3の原油安の効果は大きいものがあります。こうしたことが、3月中に日経平均2万円回復との見通しを強めるものとなっています。

例年、3月は株価が上昇することが多い

季節的な要因もあります。実は例年、3月という月は株価が上昇することが多いのです。大和証券のアナリスト・佐藤光氏によれば、これまで日経平均が1月・2月ともに上昇した年は戦後で26回ありましたが、そのうち3月も上昇した年は21回に達しています。上昇確率は実に約80%。つまり1月・2月ともに上昇すると3月も上昇しやすいというのです。今年も1月、2月ともに上昇しています。

しかも1月・2月の上昇率が大きいほど、3月の上昇率も大きくなる傾向があります。今年は1月・2月合計の株価上昇率は7.7%と、かなり高くなっていますので、この面からも3月は上昇が続く可能性がありそうです。

もちろん、株価がこれだけ高くなって来れば利益確定の売りがかさんできますので、株価が下落したり上値が抑えられることは避けられません。したがって一本調子で上昇し続けることにはならないでしょう。しかし、むしろその方が過熱を和らげ、長い目で見れば株価上昇を持続させることになると思います。

海外に目を向ければ、米国の利上げ、欧州の景気低迷、中国の景気減速など懸念材料はたくさんありますし、予期せぬ突発的な事柄で株価が下げることも起こり得ます。

しかしこの連載コラムで何度か書いてきた通り、今の株価回復は日本経済の歴史的転換が背景にあり、長期的な株価上昇トレンドに入っています。したがって日経平均2万円は「通過点」です。次の節目は、2000年4月につけた2万833円ですが、それも年内の遠くない時期に達成するでしょう。

執筆者プロフィール : 岡田 晃(おかだ あきら)

1971年慶應義塾大学経済学部卒業、日本経済新聞入社。記者、編集委員を経て、1991年にテレビ東京に異動。経済部長、テレビ東京アメリカ社長、理事・解説委員長などを歴任。「ワールドビジネスサテライト(WBS)」など数多くの経済番組のコメンテーターやプロデューサーをつとめた。2006年テレビ東京を退職、大阪経済大学客員教授に就任。現在は同大学で教鞭をとりながら経済評論家として活動中。MXテレビ「東京マーケットワイド」に出演。